晴天の霹靂

びっくりしました

エッセイ

ある雪道のできごと

普段は道が広いばかりが自慢の北海道だが、大雪の後は途端に車道も歩道も狭くなる。 たまたま小学生の列にでも行きあえば、いったん車道に出て追い抜きをかけるというわけにもいかず、一切真面目に歩く気のない彼らの後ろをトボトボとついて歩くことになる。…

ああ憧れの熟年航路

雑貨店を通りしな、手袋を売っているコーナーを目に止めた。 自分で編み物をするようになった昨今、スマホ時代における防寒と実用性を兼ね備えた手袋とはいかなる形であるのかの研究に余念がないのだ。 いくつかの気になる手袋をしきりにつけたり外したりし…

震える子犬、丸まる家猫

冬の入口で、まだ行く人達も雪に慣れきっていない横断歩道。 信号待ちをしていたら目の前におもちゃのように小さな犬がいる。 「犬って猫より小さいよなあ」 と感心して見てる間に、猛烈な勢いで子犬が震え出した。 ……えっ?あれ?なんかこの子めちゃめちゃ…

猫と炬燵と冬の悩み

冬には冬の悩みがある。 猫がいつまでも炬燵から出てこないので、下のラグが掃除できないのだ。 言葉にすればつまらぬ悩みのように響くが、まあ聞いてほしい。 この季節の炬燵は、猫が日がな一日居るところであり、人間が食事をするところでもある。 要する…

白鷺の池

朝、カーテンをあけた瞬間に世界が白い朝というのは、毎年経験しているはずではあるが、何十回経験しても未だにハッとする新鮮さがある。 外界が白く、すべてのものがシンとして、誰もかれも家にこもり、世界は私のものである。 寒い日に外を歩くと実感する…

冬の散歩道

公園は数日前と比べても同じ場所とは思えないくらい、もうすっかり見晴らしがよくなってしまった。 あんなに木の葉の茂った立派な森林だったものがいつの間にか寒々として、鉛色の池に浮かぶ鴨までがうつむいている。 ポケットに手を入れて肩をすくめて歩い…

千円カットと注目の取り組み

色々あって半年ほども美容室に行けていないまま髪が伸び、このままうっかりしてると感染症大流行でまた身動きとれなくならないとも限らない。 伸ばたら伸びたでまとめてしまえばやっていけなくもなくもないが、毛先が薄くなってくるのはやはり気にはなるので…

和歌山県の特殊な装置、および五本指手袋問題

シーズンで安いので毎日せっせと柿を食べている。 6個位入った袋を買って来て、ひとりで2日ほどで食べ切っているのだけど、考えてみればこれは食べ過ぎというのかもしれない。 そんな素敵な和歌山産たねなし柿の袋がこれだ(中身は食べ終わった) よく見ると…

来るなと言ったではないか

葛の花来るなと言つたではないか 飯島晴子 新日本カレンダー 2022年 カレンダー 日めくり 俳句の NK8813 新日本カレンダー Amazon お手洗いの俳句日めくりを破るといきなり誰かが愚痴っているの愉快な一日だ。 「……来るなと言ったではないか」 と思う日は、…

モノビジョンの少し溶ける世界

なんとなく世界が歪んでいるような気がするし、傾いているような気がするし、頼りない。 そういう頼りない世界を足の裏で踏んで歩くと、意外にも昨日までと同じようにしっかり押し返してくるのは興味深いことである。 左右の視力差を今までずっとコンタクト…

「スマイル40」の40が何の数字であるかについては誰も触れない

近頃しきりに100円ショップでおもちゃみたいなピアスを買ってきては解体して、金具を付け替えたり、パーツをバラして余ってる真珠と合わせたり、レジンで作ったガラクタと合わせたり、といった遊びをしている。 しみじみ子どもっぽい「工作」であって、無害…

イデアが逆立ちしたピアス

少し前に通り過ぎた台風のおかげで、自然公園の中は木の実が豊富に落ちており、ここのところカラスもリスも大わらわでどんぐりを拾い集めている。 動物たちに混じって、わたしも綺麗めのどんぐりを探しに行く。 近頃、色々あってレジンのスターターキットな…

芋を掘りに。

「芋を掘りに来ないか」と誘われた。 この物価高の折、「行く行く」と二つ返事。 到着するなり、芋はさておき「訪問販売?」っていうくらいの量の野菜を広げて見せられる。 「これ、かぼちゃね、一ヶ月くらいこのまま干して。小さいからまるごとレンジにかけ…

本当に自分は金属アレルギーだったのか20年越しで考え直した

ピアスホールは学生の頃からあいているのだけど、しばらく色々つけてみた挙げ句、自分は金属アレルギーだと思って諦めてしまっていた。 そんな中、実に二十年ぶりくらいで 「うーん、ピアスか」 と思ったのは、手芸屋さんで樹脂製のピアスパーツを見かけたの…

バッタは無事に帰ったか

最初の出会いは一週間ほど前だった。 共用玄関から我が家まで上がってくる階段の途中、三階あたりに緑もあざやかなバッタがじっとしていたのだ。 薄暗いコンクリートづくりの階段の上で、バッタはよく目立つ。 「なんだなんだ、踏まれないように気をつけなさ…

夏の終わりの小石湧く

人里近くでもっともよく聞かれる小鳥の鳴き声のひとつが 「チヨチヨビー」でおなじみ、センダイムシクイのさえずりであろうかと思う。 近所の公園にはこれの、やたらリズム感の良い個体が暮らしていて、 おどろくべきことに『ロッキーのテーマ』で鳴くのであ…

毛糸の上にトンボがいます

ピアスのパーツを探しに百円ショップの手芸コーナーへ行った。 細々したものがびっしり並ぶ棚の前であれこれじっくり見ていたら隣で 「ヒャッ」 と女性の声がした。 見れば年の頃私より少し上くらいの店員さんが隣で毛糸の整理をしている。 毛糸の間に何か見…

立秋の自由研究

日暮れ後の風が急に「スーンとしてるな」という心持ちがして暦を見たら立秋だ。 暑い盛りではあっても、「秋」という文字を見ると、急になんだか夏休みが終わるような寂しい気持ちになる。 時々のぞく手芸屋さんでピアスのパーツを売っているのを見つけた。 …

真夏の昼の幻影

公園に入ったあたりの小道で、正面からやってくる白髪の女性に声をかけられた。 「神社はどっちの方ですか」 ああ、神社。ここらはもう鎮守の森の中である。 「この道を上がっていったらすぐ右手に鳥居ですよ」 ありがとうと頭を下げて女性は道を上がってい…

豆子と石原兄弟と自転車と

朝家を出たら、公道に出るすぐのところに昵懇の子ガラスがいた。 相変わらず、草むらの中にひとりでぽつねんと立ってじっとしている。 鳥なんだから、地べたにいつもいることはないじゃないか。 「おはよう」 私は今日もナンパの声をかけるのだが、ぴょんぴ…

新しい友だちの予感

うちの近くにはカラスの親子が住んでいる。 雛鳥が巣から出られるようになって飛行訓練をはじめた初夏の頃から、私は顔見知りだった。 通りすがりに子ガラスが地べたにいて、見事なだみ声で鳴いているのを 「おお、なんだどうしたどうした」 と声をかければ…

身も蓋もなく龍角散

歳をとると思いがけないことが色々起こるもの。 昭和52年生まれ、近頃起こったファンタスティックな事件と言えば 「普通に実用的な意味で龍角散を買うようになった」ことだ。 今となっては「あの缶がレトロでかわいいのよぉ」というしゃらくさい動機から買っ…

阿弥陀如来の右腕の夢

近所に昵懇の阿弥陀如来さんが居る。 人気のない静かな場所にいつも一人でじっと立っている風情が好きで、通りかかると挨拶をする間柄ではあったのだ。 小柄なその人は雪よけであろうと思われる粗末な木造の小屋の中に立っており、小屋の両脇はただ抜いて木…

白いポッカの管理人

どうにも日本語の通じない管理会社の、愚にもつかない漏水案件にかれこれ10ヶ月ほどもつきあわされている。 そろそろ疲れてきているので、「話せばわかるんじゃないか路線」を放棄、思いつく限りいろんな見積もりをかき集めて外堀を固め、最終的な選択だけ迫…

季節の代わり目の罠

冬の間しまいこんでいた扇風機を出してきて、蒸し暑く感じる日に短時間つけたりつけなかったりするくらいの季節である。 「ちょっとだけつけておくか」 なんて言って、部屋の隅、壁コンセントのあたりに扇風機を置いたまま電源を入れる。 真後ろから風があた…

ヤクルト1000がなければヤクルト1000以外のものを飲めばいいじゃない

どういうわけだかヤクルト1000の人気がやたらとすごいというので、走って見に行ってみたら実際、どこのスーパーもこんな感じになっているではないですか。 「へえ、なになに。なんでそんなに売れてるの」 なんてwebサイトを見てるとヤクルト1000はさておいて…

外界にも、お手洗いにも季節あり

お手洗いで使ってる俳句日めくりカレンダーを非常に気に入っており、今年で二年目です。 365日分、季節ごとの俳句、季語、二十四節気七十二候、月齢なんかがのっていて、毎日ぼんやり眺めては、それでも地球が回っていることを噛みしめるのが本当に楽しいお…

自転車が盗まれたかもしれない悲しい話

「自転車なくなちゃってさ」 「えっ、盗難?」 「そうだと思うんだけどね。駐輪場において用事足して戻ったら見つからないんだけど。最近私も色々あってちょっとぼんやりしてるから、置いた場所がわからなくなった可能性もゼロではない」 「もう一回探しに行…

そして管理会社との静かなる闘い

寒くて薄暗い事務室でお話をしてる合間にも、いろんな人がやってくる。 ご近所にお住まいという老婦人が、野原でつんだような実に慎ましい花束をおいていったのを、備前焼の花瓶に移しながら小柄な管理人さんが言った。 「大きなホテルなんかには必ず花が活…

黙々と毛づくろいをするわたし

私の感覚ではつい最近のことだが、考えてみればもう8年も前のことだ。 初めての猫を飼い始めた時。 手のひらに乗るくらい小さくて、人を困らせることと笑わせることと心配させることしかしない、せわしない生き物なのにびっくりした。 こちらもはじめてだか…