晴天の霹靂

びっくりしました

新しい友だちの予感

うちの近くにはカラスの親子が住んでいる。

雛鳥が巣から出られるようになって飛行訓練をはじめた初夏の頃から、私は顔見知りだった。

通りすがりに子ガラスが地べたにいて、見事なだみ声で鳴いているのを

「おお、なんだどうしたどうした」

と声をかければ、道の反対側から母ガラスが鳴いて呼ぶのに何度か遭遇している。

子育て中の頃よりはだいぶ呑気になっているとはいえあんまり我が子のまわりでウロウロされるのも嫌だろうと、名残惜しく立ち去りつつも、汚い声で鳴くときの口の中の鮮やかな色やら警戒心の薄い不慣れな様子やらは見るからにかわいらしくて気になる。

「お母さんあっちだって。頑張れ頑張れ」

と声をかけたりなどしていた。

 

今日久しぶりにあったら、あいかわらず不器用なチビは道端の草むらの中にぬぼっと立って、ぽかんと口を開けていた。

どうも、カラスにしてはあんまり賢くもなさそうな様子が、我が家に住まうぬばたまの猫を思い起こさせて親しみが湧く。

「あれ、今日はお母さんどうした?」

立ち止まって声をかけるが、周辺に見守ってる親鳥の気配はまったくない。

あんまりじっと見つめられるので困ったようにピョンピョンと跳ねて離れ、手近な手すりの上にとまった。

どうもまだ飛ぶのは得意でもなさそうだし、私に好奇心もあるらしい。

距離を保ったまま私も同じ手すりに寄りかかって、かけていたマスクを外しちょっと話しをする。

「一人なの?飛ぶのうまくなった?」

声と顔を覚えてもらって、友達になりたいのだ。

カラスの友達というのは、昔からちょっと憧れだし、カラスは人の容貌を覚えると聞く。

くりっと首を傾けて、私の方を見るチビは嘴の横のオレンジ色の幼児色がまだ取れきっていなくて愛らしい顔をしている。

「うち、あそこの上の部屋だから今度遊びにきて」

ちょうど見えている我が家を指差す。

そうやってしばし二人で手すりに持たれて話をしていたが、やがてチビはふわっと不器用に飛んで離れた。

 

今日で、だいぶ仲良くなれたかな。顔覚えてくれただろうか。

新しい友だちができたかもしれない予感に、だいぶウキウキしながら、先程カラスに指さし教えた自分の部屋へ帰宅する。