晴天の霹靂

びっくりしました

白鷺の池

朝、カーテンをあけた瞬間に世界が白い朝というのは、毎年経験しているはずではあるが、何十回経験しても未だにハッとする新鮮さがある。

外界が白く、すべてのものがシンとして、誰もかれも家にこもり、世界は私のものである。

 

寒い日に外を歩くと実感するのが、人って所詮は空気やら栄養やら、外から何か取り込んで自分の細胞で一巡させ、また外に出してるだけの単純な機構ということだ。

白い雪の匂いの空気の中を歩くと、自分の体が白い雪の匂いになっていうのがよくわかる。

レタスやらじゃがいもやらと同じように、人間の細胞も寒いところにおいておくほうが、きっと長持ちするんだろう。

歩くうちに、なんとなく寒冷地ハイになっていく感じがする。

 

近所の池は、うっすらと表面が凍り、いつもいる鴨は一羽もみかけない。

代わりに、本来はこんなところにいないはずの真っ白なサギが、かろうじて凍っていない一隅にしんみりと立ちつくしている。

こんなところに一羽きりで居ても、食べ物もないだろうに。

心配になって足をとめて見つめれば、鴨ほどは人馴れしていない白い鳥は翼を広げて飛び逃げる。

くいっくいっと不自然なほど曲がった首のS字のカーブが、空を飛ぶにもとりわけ寒そうだ。

迷子のしらさぎを、私が追い出してしまったのであればずいぶん申し訳ないことをした。

食べ物があるなら、ゆっくりしていけばいい。

これからの季節、池のあたりは通る人も少なくて、世界は内向的な人たちの遊び場だから。

 

人間の細胞はレタスのような感じだと想像する。

冷たい空気にさらすと、とりわけしゃきっとする。

今年も、きっと悪くない師走がはじまる。

『作りたい女と食べたい女』~コミック版の食いっぷりに追いついてくれると嬉しい

『作りたい女と食べたい女』っていう漫画が好きで読んでいたんですが、気づいたらNHKでドラマ化されていたのでちょっと驚いた。

料理を「作りたい欲」ってものもあるし、「食べたい欲」ってものもあるけれど、「食いっぷりを見たい欲」ってものも、わりとあまねくあるらしい、というのはかつて『孤独のグルメ』の大人気が証明したところです。

しかしそこにはまだ「女性が一心不乱に食べまくる」という素晴らしい鉱脈もあるんだぞ、ということを示唆したのが、この漫画でした。

 

「あれを食え」「これは食べるな」「どれくらい食え」「いつ食え」「どう食え」などの情報に押し流されるばかりで、屈託なく食べたいままに食べられる人などほとんどいないであろうと思われるこの社会、ましてや女性に対しては「そもそも病気の小鳥くらいの量しか食うな」というプレッシャーも相当強い。

 

そんな中でただ無口な存在感を放ちながら自分のために黙々と食べ続ける女性、春日さんの魅力は、ある意味、抵抗運動のようにも見えて、癒されるものがあるのです。

女性の体は公器じゃないんだから、食べたいものを食べたい量食べるのに遠慮はいらんのだよ。

 

漫画が好きなだけに、「春日さんの食べっぷりが実写ドラマ化のすべての鍵を握っているだろう」と、不安におののきつつ第一話を鑑賞したものです。

www.nhk.jp

 

感想としては、漫画には出てくる二人の非正規労働で働く女性の生活感みたいなものが消されてしまっているのがだいぶ残念であったし、国民の胃袋、松重豊とつい比べてしまうと食事シーンもだいぶ迫力に欠けると言わざるを得ない。

それでも常に黒っぽいダブダブの服を着て、ほとんど喋らない春日さんの、隠れがちな可愛らしさは存分に描かれていて、その点に関しては愛情を持って実写化されたんだろうな、とは思いました。

 

とりあえず、今後も見ていくものとする。

冬の散歩道

公園は数日前と比べても同じ場所とは思えないくらい、もうすっかり見晴らしがよくなってしまった。

あんなに木の葉の茂った立派な森林だったものがいつの間にか寒々として、鉛色の池に浮かぶ鴨までがうつむいている。

ポケットに手を入れて肩をすくめて歩いていれば、向こうからくる人もまた肩をすくめてやってくる。

ただ道の脇のところをコロコロと転がるようについてくる真っ白な子犬だけが全身で笑いながら来る。

あんなに小さな生き物が、いかに毛皮を身に着けているとはいえ、果たして寒くはないのだろうか。

通り過ぎざまマフラーに埋もれた首を回して振り返れば、子犬も可愛いおしりを巡らせてこちらをちょっと見た。

タノシイジャナイカッ!

子犬は再び全身でそう言うと、飼い主のあとをコロコロコロコロついていく。

タノシイジャナイカ。タノシイジャナイカ

色のない世界の中でその足元からは、無限に8分音符が湧いては乾いた空へ飛ぶようだ。

師走に入ればすぐさま、気温は氷点下を上回らない真冬日になるらしいけれど。

「……それでも本当は、私も冬って嫌いじゃないさ」

子犬が転げてきた道を踏みながら、かすかな音符のあとを遡って私も歩く。

 

『ザ・メニュー』~手の込んだわけのわからないものをずっと食べる

 

劇場で予告を見て、なんだかよくわからないあまり気になっていた映画『ザ・メニュー』を見てきました。

こういうちょうどいい映画が見たかった。素晴らしい。


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「この映画、なんだろう?」と思ってふらっと見に行って、ちゃんとわけわかんない面白い映画を見せてもらえたときのヨロコビたるや。

 

予告とか、映画の最初の方を見てると、なんとなくアガサクリティ式の密室推理ものっぽいムードで進むんだけど、それにしちゃ変な感じがするのが楽しいのです。

ミステリー系ならもうちょっと緻密に描かれるであろうディティールがわりと雑に進んでったりするので、ジャンルごと、何見ているのかわからない。

わからないままに、とにかくニコラス・ホルトだけは

「あ、この人はきっと馬鹿なんだろうなあ」

という予感とともに登場するので暖かく見守っていたら案の定馬鹿だったりする感じとか、コメディの質感も良かったです。

 

スリラーっぽくてコメディっぽくて圧倒的に祝祭感があるあたり、アリアスター監督を思い出しながら見ました。

本当にちょうど良くって面白い映画でした。

 

 

ミッドサマー(字幕版)

ミッドサマー(字幕版)

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『ミッドサマー』とか好きな人ならきっと好き。

 

 

ついでにこの『ザ・メニュー』を見に行った劇場でかかっていた予告で、ものすごく気になる作品を見つけてしまいました。

今まで見たことのある劇場予告の中で、歴代最も気になる一本のような気がします。


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どうも老人が絶交する映画らしいのだけど、なんだそれ。高須と河村たかしか。

 

ハクキンカイロ二年目の挑戦 ~臍もいいが腰も温めたい

今年もハクキンカイロの季節がやってきて日々大活躍している。

朝、目覚めのコーヒーを飲みながらカイロにベンジンを入れて発熱させ、首からぶら下げて臍のあたりを温める。

夜寝る時間まで十分に温かい。

なんなら臍を低温やけどするほど温かい。気をつけよう。

 

rokusuke7korobi.hatenablog.com

昨年初めて購入して、どこを温めるのが良いかと色々試行錯誤はしたが、首からぶら下げるのが一番邪魔にならないし快適という結論に一応到達した。

 

とはいえ、せっかくハクキンカイロとともにすごくふた冬目、新たなる気持ちでまた試行錯誤をすべきではないか。

そう思って今年目をつけたのが「ランニングポーチ」なるアイテムだ。

 

スマホや鍵程度が入る容量で、体にフィットして軽量のポーチ。

本来はランニングのときに身につけるアイテムだろうが、カイロを入れてぬくぬくと腰を温めるのにも最適な気がする。

 

買ってみるとサイズも十分。

写真はハクキンカイロミニだが、スタンダードサイズでも入りそうなぐらいのゆったり感

付け心地も結構よく、家でつけていても気にならないフィット感。

「これはハクキンカイロの使い方の正解第二弾出してしまったんじゃないか」

と、私は思った。

身につけてみるまでは。

 

「なにか、おかしいな」と思ったのである。

いつもより暖かくない。

触ってみると反応が消えてしまっているのでチャッカマンでつけ直す。

今まで途中で反応が消えてしまうことなどなかったのにな、と思いながらその後も二度ほどつけ直してやっと気がついた。

 

酸素不足。

さすがランニング用だけあって、ばっちりの防水構造なのである。

水も漏らさないし、酸素もあんまり漏らさない。

故に発熱反応も持続しない。

腰を温める願望に夢中になるあまり、仕組みが有酸素反応であることを忘れていた。

 

ジッパーを開けて使うなどの方法も考えられなくはないが、トイレで落とすのも厄介だと考えると、やはり首からぶら下げるほうが理にかなってるような気がする。

「そうか、ハクキンカイロには酸素が必要なのであるな」

再び、去年同様カイロを首からぶら下げながら、初心に戻ったのであった。

 

 

スタンダードサイズも持ってるけど普段はミニを愛用。

 

 

火口は冬のはじめに買っておかないと、寒さの深まりとともにドン引きするほど値上がりすることを昨年学んだ。

 

ところで数多あるランニングポーチのレビューを見比べていたら「容量も多いのでスイカも入ります」と書かれたレビューがあった。

「さすがにポーチにスイカは入らないだろ」

と一瞬考えこんでしまったのは、私がSAPICA派だからであるか。

 

 

 

今週のお題「防寒」

 

 

初雪の夜、大捕物

雪が降り、猫が何時間も炬燵にこもる季節が来た。

炬燵は八時間でいったん切れるようにタイマー設定されている。

猫にしてみれば不本意なことだとは思うが

「タイマー切れたんで炬燵入れてください」

と八時間おきに頼みに出てくるような仕掛けをしておかないと、このまま春まで会えなくなる可能性もあり、不便こそ我々の大切な絆である。

 

そんな猫が、タイマーとは関係ないタイミングで突然炬燵から静かな部屋の中にババババッと走り出てきた。

寝ぼけてるのかな、と思いながら

「おはよう、まろちゃん」

と声をかける。

こちらを振り向いた黒猫の様子が変である。

 

口の中に何か引っかかってるように、しきりに気にしてベロベロと舌を出したり首を振ったりしている。

見せてごらん、と慌てて顔を覗き込む。

外から見た感じは何もないが、捕まえて口を開けさせようとすると嫌がって遠くへ行ってしまう。

どこが痛いんだろう、と思ってじっと見ていると私の緊張が伝わって、じりじりと後退した挙げ句ついに天袋の奥まで逃げてしまう。

生き物をむやみに凝視してはいけないのはジョーダン・ピールが『NOPE』で言っていた通りだが、しかし一刻を争うような何かが起こってるかもしれないこの状況で他にどうしろというのか。

 

自分で口の中を調べられない以上、獣医にまかせるしかない。

動物病院を調べると1時間後に夜の診察開始の時間だった。

あと1時間、とりあえず自分がリラックスして、猫の警戒心を解くのが先決だ。

キャリーバッグや診察券の仕舞い場所、この後の予定の調整などを考えながら何事もなかったかのようにパソコンの画面を見ていると、しばしば天袋の奥からチリンチリンと鈴の音が聞こえる。

猫が首を振っているのだ。

知らない、知らない。気にしてないから出ておいで。

 

リラックスしている真似に勤しむ私と、天袋で時々鈴を鳴らす猫の間で空々しい1時間が経過する。

いざ、キャリーバッグを構えて意を決して短期決戦の勝負。

もちろん、猫は捕まらない。

少々口に違和感があっても、猫のダッシュは早いのだ。

滝を流れ落ちる水のように、真夏の蜃気楼のように、猫はどこまででも華麗に逃げて不器用な人間の手には決して捕まらない。

 

最終的に天袋の要塞を放棄、炬燵の奥の奥へまで入り込んだ。

布団をめくって様子を伺う私に疑り深い眼差しを向けてきた猫に、ついに一時休戦を申し入れるしかなかった。

しかし炬燵の奥の暗がりの中で、ほとんど口を気にしなくなっているようにも見える。

「わかった、とりあえずちょっと話し合おう。まあ、ちゅーる食べなさい」

差し出した非常用のちゅーるは、喜んで食べるのだ。

口の中が痛いわけではないのか。

とりあえず、口を気にする仕草をしなくなったように見えることと、餌はちゃんと食べられるらしいこと、これ以上ストレスを与えたくないこと、病院の診察時間を考え合わせると、もうその日は諦めるしかなかった。

 

夜、眠ろうとするといつものように猫は私の枕を奪いにやってきて頭の横でゴロゴロ言っている。

機嫌が良いところを見ると、痛いところも不快なところもないらしい。

本当は、現状なんともないとはいえ一応病院で診てもらいたいのだけど、

「あんたはぐったりする病気の時以外は病院につれていくのは無理だねえ」

嘆息しながら耳と耳の間の柔らかい毛を撫でる。

子猫の頃おもちゃを飲みこんで腸閉塞で入院したり、一緒に育った先住の虎猫が入院したとおもったらあっという間に他界してしまったり。

この子にはこの子でとにかくなんとしても病院というところだけには行きたくないと固く決意するほどのトラウマがあるのだ。

「……本当に、頼むよ」

必ずや自分より先に逝く運命の命のことを考えながらしんみりしていく飼い主と、もはやすべてを忘れてゴロゴロ言ってる猫と、二つ頭を枕に並べて初雪の夜が更けていった。

 

 

 

 

生き物を見つめるときはマナーを守ろう。

人間でも、ペットでも、訳の分からないものに対しても。

『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』~全編もっとカラフルにしてくれても良いんだが

ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』観てきました。
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「なんとなく見覚えのある人となんとなく見覚えのある人が大スペクタクルで戦ってるけど、どうしてこうなったのか経緯が思い出せない」

っていう感じに必ずなるので、もうそろそろMCUも見るのをやめてもいいだろうと思いはじめてはや数年。

ブラックパンサーに関しては予告観ただけでファッションとメイクとサウンドがあんまりかっこいいので、つい見に行ってしまいます。

 

相変わらずやっぱり一番盛り上がるあたりで

「ところで、なんでこうなってるんだっけ?」

と思いながら観てはおりましたが、ルックを目当てに行って、随所本当にかっこよかったので、満足して帰ってきました。

ブラックパンサーはさておき、戦士オコエが画面に映ってるだけでもだいぶ楽しいよね。

「白人が鎖に繋がれてるの超ウケるw」というギャグがしびれるオコエさん大好き

 

要所要所が完全に「アバター」になってるのをみて「ジェームス・キャメロンへの嫌がらせなのかな?」なんて勘ぐるのも楽しい。

惜しむらくは画面がちょっと暗いことで、ひょっとしたらIMAXで観るともっときれいなのかもしれませんが、もっともっと賑やかな市井の人を盛り込んで、最初から最後まで泥棒市みたいなムードの映画にしてくれてもいいんだぞ、という気はします。

 

それにしても同時期にヒット中のインドの大型アクション映画『RRR』があれだけのスペクタクルをちゃんとわかりやすい構成にまとめてることを思い起こすに、

MCUも私でも理解できる映画にまとめようと思えばできるんじゃないの?」

というようなことをちょっと思ってしまうのは避けられないのでありました。

いや、人がたくさん出てくると途端に理解できなくなる私が悪いっちゃ悪いんだけど。

 

それはそうと、MCUを見に行くと客席は比較的若い男子が多いのですが、これだけ色に溢れた映画を観終わって、帰ろうと思ってパッと振り返ると、男子軍が端から端まで全員黒のダウンジャケット着てるのは、改めてなかなか衝撃の風景ですね。

「うおっ、抑圧の匂いがする!」

と思って一瞬棒立ちになるのでありました。ワカンダフォーエバー!