晴天の霹靂

上品な歩き方とかを習得できないまま人生を折り返すとは

『闇の奥』 ~猛暑の水風呂で何を読む

大変に暑く、午後になった途端に意識が朦朧としてくるのだが、水風呂に入ってさえいればとりあえず本を読める程度までは頭がはっきりする、ということを思い出した。

 

そういえば、去年は猛暑の間に水風呂の中で『シャイニング』上下巻を読み通してしまった。昼日中から風呂、という非日常性と外界から隔絶されてしまった感じがシャイニングにピッタリあって格別の読書体験であり、ひとりでたいそう盛り上がったのだった。

 

こんなとき強い味方なのはやっぱり軽くて防水のKindle Paperwhiteで、とりあえず意識朦朧としていてもこれだけもって風呂に入れば、水に浸かって頭がはっきりしてくる間に何を読むかをあれこれ選べるというのが面白い。意識の朦朧と明瞭の間で自分がどんな本を読みたがるかなんて、そのときになってみなくてはわからなくていかにも興味深いではないか。

 

そんなわけで、今年の水風呂読書はとりあえずジョセフ・コンラッド『闇の奥』であった。

コンゴの密林を奥へ奥へと進んでいくと、だんだん意識がおかしくなっていき、最終的に2メートル10センチの大男とが地面からむわーっと湧いて出るという、読んでも読んでもなんだかさっぱりわからない重々しさみたいなのが良い。

こちらだって、身体がみちみちになる程度のサイズのユニットバスに延々と挟まって「ここから出たら死ぬかもしれない」などと思いながら、一方でなぜか呑気に小説なんかを読んでいる身の上である。状況に”闇の奥感”は十分。そのうちぬるくなっていく水の中から自分の分身がぶわーっと立ち上がったりして、と思う程度には非日常的な気象を過ごしているのだ。朦朧としてるわりに、なかなか良いチョイスだと思う。

 

年々、エアコンのない土地柄での猛暑はつらいけれど、この「小説でも読むより仕方ない」というところに追い込まれて水風呂の中でする読書はあまりにも印象の強い体験なので、これだけは悪くないよな、本当に。と思う。