できるだけ図書館の利用割合を増やしていく、と心に決めたものの、ちょうど読みたい本がKindle半額セールになっていたり、懐かしい本がブックオフ価格くらい安かったり、邦訳が超絶値上がりしている絶版本が原書の電子版だと文庫本以下の値段で買えたり。色々重なったおかげで結局今月も思ったより買ってしまったのでした。Kindle怖いよ。
(アマゾンリンクの貼り直しと追記をしました)
成瀬は天下を取りにいく
本屋大賞を取ってずいぶん読まれているのは知っていたので、続編が出たタイミングで半額になってた電子版を購入。「ふむふむ、読みやすくて面白いんじゃない」と思うのと同時に、自分が中高生くらいだった時代に比べて若者がはるかに周りに気をつかうレベルが上がっているんじゃないかという気もして斬新だった。
私のころは「ガリ勉」とか「脇目もすらず部活やる」とか、なんか露骨に偏っておけばちょっと気がきかなくて多めに見られる道が色々あったような気がするので「今の若者、めっちゃ気つかって生きてるやん!」って思ったもんです。私が個人的に駄目なやつだった可能性も高いけど。
完全版 タロット事典
7月に、あまりにも暑いのでタロットで遊び始めてそのままハマり続けた8月。題材がある程度あって、それをヒントにいろんな人がいろんな場所で一回限りのストーリーを語ったり聞いたりして、いちいちどこにも残されないまま消えていったんだと思うと、これはもう面白くて仕方ない。本当は、こうやって形を整えて残してある本より、誰の記録にも残されなかった「女、子供」や「流れ者」たちの一回限りの人生のストーリーの方を、聞きたいよなあ。
タロットウォーズ(8) (ハロウィン少女コミック館)
これも7月にあまりの暑さに読み始めたタロットをテーマにした漫画。せっかくなので8,9巻と買って最後まで読み切りました。ちょうど読んでた時期に「オカルトにハマる人って頭悪いよねえ」みたいなことを友人が言い出したので「オカルトなんて面白いに決まってるじゃないか、ちゃんと勉強してから言え!」などと喧嘩売ってみたりして遊んでおりました(注:友達だからですよ)辺縁の知恵は面白いよねえ。
タロットの本を日本語で読めばどこにでも名前の出てくる研究者鏡リュウジ氏が、なにかのyoutube動画でおすすめされていた本。
「初心者向けの本」くらいのテンションで紹介していたにもかかわらず、読んでも何が書いてあるのかまったくわからなかったことに対してなにかの火が付きまして、ますますハマる入口となったのでありました。
「とりあえずルネサンス期の文化芸術についてちょっと理解できるようになればいいんだなっ!」ということで山田五郎のyoutube「オトナの教養講座」で西洋絵画史をざっくりおさらいしたところで、この本も前よりちょっと読めるようになり、それはそれとして西洋絵画にも改めてハマったのでありました。忙しい。
キリスト元型──ユングが見たイエスの生涯
ルネサンス期の神秘主義といえばキリスト教とアーキタイプの話は避けて通れまい、ということで買って読み始めたのだけど、まだちょっと手が回ってないので最後まで読んでません。
明恵 夢を生きる (講談社+α文庫)
8月は、地元に高野山展と鳥獣人物戯画が来ていたので観に行ってきた。明恵という人がやっぱり面白くて、一生かけて大事にしていた”普通の石ころ”を生で観られたのは「本当に普通の石ころだなっ!」という驚きでいっぱいだった。一方、鳥獣戯画の方は小さくて、人がたくさんいるとぜんぜん見えないのにもびっくりした。教科書の写真で見るほうが見やすいくらい小さいのね、あれ。
とにかく明恵さんは全体像がわからなくて面白い。
新版 日本人になった祖先たち DNAが解明する多元的構造 NHKブックス
近年メキメキと研究が進むゲノムの話。遺伝子ってある程度集団ごとにプールされていくものだということが明らかになると、血筋とか家系とかの話が無効化されていくのが非常に爽快だなあ、と思うのでありました。
『百年の孤独』を代わりに読む (ハヤカワ文庫NF)
本屋さんに大量に平積みになっている『百年の孤独』を見ると嬉しくて、つい、隣にひっそり並んでいるこの本も買ってしまったのでありました。何しろ『百年の孤独』自体は電子書籍化はされていないので、いずれは出てほしいところです。
群衆心理 (講談社学術文庫)
8月といえば、パリ五輪の開会式でマリーアントワネットが生首持って歩く演出があったとかでちょっと話題になっておりました。テレビを持っていないと私としてはそのパフォーマンスは見られなかったのだけど、話を聞いて思い出したのがル・ボンの群集心理。
「細けえこたあ忘れてスポーツウォッシュで盛り上がりましょう」っていう群衆化の祭典の冒頭で、かつてパリで人が群衆になることでどれだけ愚行をしでかしたのか、みたいなことをわざわざ思い起こさせる演出を入れたなら「それは興味深い視点じゃないかっ!」と思い、いつか演出意図とかの振り返りなどもなされるのだろうからちょっと読んでおくか、ということで読み返したりしていた。でも今のところ件の開会式を見る機会はないまま、8月が過ぎてゆかんとしています。
「山田五郎 オトナの教養講座」 世界一やばい西洋絵画の見方入門
タロットを読むためにルネサンス美術を勉強しようと思って見始めたyoutube「オトナの教養講座」がルネサンス期以外のところも面白すぎるので買ってしまった、まとめ本。これ見ながら「おおっ、カップの3のカードはよく見れば三美神のポーズじゃないかっ!」などと盛り上がっているのです。楽しい。
抵抗の拠点から 朝日新聞「慰安婦報道」の核心
もう10年も前の本ではあるけれど、いつまでもゾンビのように蒸し返されてくる話題なので、忘れないように読んでいかざるを得ない。
H. R. GIGER TAROT
映画『エイリアン』のデザイナーでおなじみのHRギーガーがタロットを描いているらしい、というので調べてみると、カード自体は絶版。高額でとても手に入らないのだけど、図版入の英語版解説書の方だけ千円程度で手に入るので買ってみた。そりゃもう、とんでもないことです。
例えば、0番の『愚者』のカードといえば、最も一般的なデザインでは、ヒッピーみたいな若者が崖の上で浮かれていて落っこちそうになってる、という図柄。それがギーガー版になると、「おむつをして便器の上に座っている老人に向けて女性が性器を見せている」という絵になります。
「なんでだよっ!」と思うんだけど、ぎょっとするあまり凝視してなにかを読み取ろうとしてしまう力は圧倒的にギーガー版の方にあることに感激したもんです。また絵が美しいから魅力と嫌悪感を等分に引き起こされていくところが、素晴らしい。
Women Who Run With the Wolves: Myths and Stories of the Wild Woman Archetype
『狼と駈ける女たち 「野性の女」原型の神話と物語』というタイトルで翻訳もされているのですが、絶版で数万円くらいになっている名著。ユング派の研究者が女性のレジリエンスに注目して各地の民話を集めた大変面白い著作なんですが、さすがに買えないので図書館で借り、しかし図書館のものは半月で返さなければならないのでKindleの原書をダウンロードして突き合わせながら読むという面倒くさいことを初めてしまったのですが、そんな手間をかけて読んでも面白い。
そしてこういうものを読んでいると「老婆」みたいなどこかの時点にタロットに紛れ込んでいなければむしろ不自然なくらい誰にも接点のある元型が意外と入っていないことに気づいたりする。なぜ老婆のカードはないのか?
追記:番外編
図書館でなら結構ある『狼と駈ける女たち 「野性の女」原型の神話と物語』。近頃の読書の中でも屈指の面白い一冊でした。