晴天の霹靂

びっくりしました

ああ憧れの熟年航路

雑貨店を通りしな、手袋を売っているコーナーを目に止めた。

自分で編み物をするようになった昨今、スマホ時代における防寒と実用性を兼ね備えた手袋とはいかなる形であるのかの研究に余念がないのだ。

いくつかの気になる手袋をしきりにつけたり外したりしていると、横を通り過ぎるご夫婦と思しき二人連れのうち女性のほうが足を止めつつこう言った。

「あ、ちょっと待って。これ見たい」

女性は私のすぐ真横に立ち、手袋をあれこれと触りはじめる。

男性もつられて足を止め、その様子を見ながら言う。

「ああ。あったかいやつか」

女性は嬉しげに手袋の山をかき分けつつ答える。

「うん、そう。あったかいやつ」

真横で親指つきアームウォーマーを試着していた私は思わず、それを断固として棚に戻し、ご夫婦を振り向いてきっぱりこう言いそうになった。

「そんな会話あるかあっ!」

 

げに、共同生活というものは名詞を一切つかわずにやりとりが成立するようになってからが本番なのかもしれない。

小津安二郎のような夫婦というのは、実際に存在するのだ。