ひとりで開催「参院選読書週間」、次は何を読もうかと選挙区の候補者の著作など検索していると、非常に興味深いものに気づいてしまった。
小沢一郎の陸山会事件で有罪判決を受けて公民権停止になっていた元秘書の人。
ああこの人があの人だったのか、とウィキペディアと手元の選挙公報の候補者を見比べながら思う。
色々わからないところはさておいても、今どき小沢一郎の家に住み込みで書生ぐらしてたうえに、なんだか色々言えないことも多そうなダークサイド話など、面白いに決まってるではないか、と思って読み始める。
「小沢一郎のことは好きではないがしかしまあ」
みたいな気持ちが文章の端々から感じられて、全然煮え切らないがそれがおもしろいと言えばおもしろくもあって読み進む。
炎天下「なんだかやけに暑いな」と思いながら出かける。
北国ながら気温はすでに30度を超えている中、ふと気づけば目の前に選挙カーが止まっている。
誰だ誰だ、と見に行けば、ついさっきまで読んでいた本の著者がマイク持って喋っているではないか。
「おー、あの人か。いかにも気力体力充実していて小沢一郎と戦っても大丈夫そうな人だなあ」
と思って、自転車を止めて聞く。
プラカードを持って車道に手を振る人がずらっと並ぶなど、この選挙戦は相当な力の入れ具合であるのが見てとれる。
話もうまいし、ぼーっとしてるとどこから現れたのか見えないくらいの勢いで駆け寄ってきてもくれる。
ソツのなさ、すごい。
直ぐ側に候補者が駆け寄ってきてくれた気配をうすうす感じながら私は思っていた。
ここはひとつ、有権者としてバシッと言わねばならん。
「政治がまともに行われるためには野党に強くなってもらうしかないし、現実的な選択肢としては第一党にしゃんとしてもらうしかないではないか。一体どうなってるんですか」
目まぐるしく考える私の真横に立ったのは、見事に選挙灼けした屈強な政治家オーラ。
よし、ガツンと言ってやるっ!
「……雑巾がけ、読んでますう」
「あ、雑巾がけ。十年前の本ですねー」
私の手をぶんぶん振りながら、屈強な政治家は苦笑して、物腰柔らかくも眼差しは次の聴衆の姿を探して滑っていった。
あは、あははは。
10年前の本だったのか、Kindleで出てきたやつをパッと買ったので気づかなかった。やだ、照れる。
何より勉強になったのは「なんとなく権力っぽい人」が向かってくると、民草としてはとっさに媚びてしまうもんだ、ということだ。
政治家も、選挙を通して成長していくんだろうけども、有権者も選挙で成長するんだろうなあ、などとすごすごと帰りつつ思う。
日々暮らしていて、言いたいことは色々あるに決まってる。
引っ越しを考えるたびに住宅の選択肢が狭まってるのは、私のせいじゃなくて政治のせいじゃないんですか。
私が使える住宅補助がろくにないの、おかしいですよね。
居住権って基本的人権じゃないんですか。
とにかく伝えるべき人に伝えられるようになるには、こちらの側も主権者意識をだいぶ鍛えておかなければ勢いに負ける。
選挙に出るのは楽なことではないに決まってるし、その点で候補者のことは本当に尊敬するが、そうであるならそれと対峙して権利を主張する主権者になるのも、やっぱり楽ではないはずだ。
「いやあ、いつか言えるようになろうっと」
そう思いながら自転車漕いでく帰り道、さっきの選挙カーとまたすれ違って、あやうく目があいそうになって条件反射で目を伏せた。
小沢一郎の家に住み込んで雑巾がけできるような人には、生き物として絶対勝てる気がしない。