晴天の霹靂

びっくりしました

シンデレラ現る

丘のある公園で広い芝生を見下ろしながら歩いていたら、70代かと思しき女性が二人、眼下を裸足で歩いていく。それぞれ手に靴を持って。

夏が来るのが嬉しくて仕方ない子どもたちやら犬やらが縦横無尽に駆け回るなかで二人だけ、少し足の裏が痛いみたいにこわごわと、ゆっくり進んでいくのが目に飛び込む。

 

生きていて、こんなに美しい瞬間に出会うことがあるかしら。

紛れもない少女が二人、何十年と使い続けた身体に乗って冒険に漕ぎ出していく瞬間ではないか。いつも必ず履いてきた靴をその日だけ脱いで、「ちょっと裸足で歩いてみない?」と相談したのだろう。初夏の芝生の色があまり素晴らしくて、もっと世界に近づいてみたくなったのか。

あのシンデレラは幼かったから、灰と煤の世界を飛び出すために誰かの家に靴を置いてくる必要があったのかもしれないが、彼女たちはいくつも思春期を超えた少女たちだから、仲間と一緒に靴を手に持てば別の世界に踏み込むことができるかもしれないと気付いたのに違いない。

眼の前に本物のシンデレラをみたのは初めてのことだったけど、こういう続きがあるならあの話もちょっとはいいものだったかもしれないな、という気にもなる夏。