我が家のぬか床がどうなっているかということに興味ある人が私以外に世の中にいるとはもちろん思わないが、ぬか床を育てることは猫を育てるのとおなじくらいかわいいので(猫の方がちょっと余計にかわいいかもしれないが)、隙あらば記録するものである。
1,麹
ぬか床、8日目くらいである。
1.2キロのぬか床に米麹を50グラム入れた途端に、さすが麹菌の力、翌日から急激にふっくらしはじめ「美味しいものができそうな感触」が生まれはじめている。
この工夫に応える形でふんわりほかほかしてきてくれるところが小さい生物を育てる面白さ真髄である。
まだ一週間程度ということで、乳酸菌の育成はまだまだ全然というところではあるが、そうは言っても胡瓜なんかはすでに抜群に美味しく、この先どれくらいまでぬか床が育ちうるかという期待に胸が高鳴るものである。
ときめきで白飯がうまい。
2,干し
ぬか床が家にあると、大根をせっせと買うようになる。
せっせと買うが、いっぺんに漬けるわけではなく、輪切りにして毎日少しずつ、である。
後半のほうはそれなりにシナってくるが、どうせ漬物なのでシナることは全然構わない。
しかし、一方でこうも思うのだ。
「どうせ水分抜けるなら太陽光に当てて水分抜いた方が美味しく干からびるのではないか」
思い出すのは我が家にある梅干し作り用の干網である。
干してから漬ければ、ぬか床が水っぽくなるのも防げるし、野菜の栄養価も上がるし、いいことばかりなんじゃないか。
そう思った私は、氷点下のベランダに青い干網をぶら下げ、適当に切った野菜を寒気に晒した。
どれだけ雑に扱っても絶対に腐敗しないなんて、こんなこと厳冬期にやらずにいつやるのだ。
日中の外気に数時間さらし、夜は取り込んで室内に吊るした大根とニンジンをぬか床に漬けること一日。
漬かり具合や塩加減の調整はまだまだ把握できていなくて完成度は低いのだが、干し野菜ならでのはパリポリした歯ごたえと凝縮された素材の味が素晴らしく、
「漬かり具合はさておき、これはうまい!」
ということに相成った。
そういうわけで、基本的に一日程度干してから漬けるルーティンになりつつある。
ただし、道を歩いていてふと自分の家のベランダを見上げると白銀の中その一角だけ漁村みたいでだいぶ異様な感じにはなるので、ご近所に対して心を強く持とう。
3、なすび
「こうなってくると、今年の課題は茄子であるなあ」
ということになる。
夏の友といえば茄子の漬物であるが、過去のぬか漬け履歴も含めて美味しくつけられた試しがない。
色が悪い、皮が硬い、すっぱい、しょっぱい、漬かりが甘い。
のどれかに必ず落ち着いてきた年月だった。
そうは言っても、茄子は基本的に美味いものなので、毎年買って、毎年なんらかの浅漬を漬けてはせっせと食べているものではあるが、そうしながらも茄子のポテンシャルは本来もっとあるはず、という思いとともにどの年の夏も過ぎていく。
しかるに、近所の雑貨店で300円ほどの銅イオンの茄子の色止めを見つけて買ってみた。
鉄玉子と迷ったものではあるが、鉄は重いし小さいぬか床の中ではちょっと邪魔にもなるので、今回は銅板を試してみることとする。
こういうものは、入れっぱなしにするかどうか、使い方がいまひとつよくわからずに悩ましいところがある。
ずっと入れていくとなんらかの匂いや風味がついてしまうのではないか、という気もしないのではないのだが、酸化する金属を出したり入れたりしてると扱いも難しくなる。
かつて鉄玉子を盛大に錆びさせた経験を踏まえ、今回は入れっぱなしにして様子をみてみようと思う。
今年、美味しい茄子のぬか漬けをどんどん食べられるかどうかは、これからの日々の心がけ次第。
茄子の季節を迎え撃つ準備は、できつつある。
今週のお題「手づくり」