風邪を引いている間に、野菜を漬けたままぬか床を放置していた。
喉が痛くて固形物を食べる気分にならなかったのもさることながら、自分がなんだかよくわからないものに感染している状態で、ぬか床に手を突っ込む気分になれなかった、という気分の問題でもあった。
さすがに4日目くらいで野菜だけは引き上げたのだが、その時点では状態が別に悪くなかったには驚いた。
さすがに「いかにも美味しそうな匂いがするっ」というコンディションというわけにはいかなかったが、異臭は全然していない。
季節柄もあったし、足し糠をした直後で水分量が少なめだったせいもあったのだろうが、放置にもめげずに一人で頑張り続けてくれていたぬか床にはこちらも密かに心打たれたもんである。
ビオフェルミン錠と塩と唐辛子粉末を足して寝かせつけておいた。
野菜を引き上げたことに安心し、その後またぬか床に手を触れなかった期間が3日ほど。
体調が良くなってきたので再びかき混ぜると、今度は少し「このまま野菜を漬けてもうまくならないな」とわかるタイプの酸味がしてきていた。
また塩とビオフェルミンを足して混ぜ、というのを2日繰り返したところで、なんとなく良い感じになってきたため、水分の少ない切り干し大根を試しに漬けてみる。
切り干し大根をぬか漬けにしたのは初めてだが、特有の太陽のような香りと、ちょうどいい甘みと酸味で、なかなかイケる。
そうは言っても歯に挟まりやすい形状だし、本当にこの漬かり具合で良いのかどうか判別の難しい繊維っぽいような食感で、いわゆるお座に出せるような献立ではまったくなく、自分のためにひっそりつけてこっそり食べる、非常に小さな箸休めになった。
こういう「人には食わせられないが私は好きだ」という食べ物って、それはそれで知ってるとなんかちょっと嬉しい。
「ちょっとごま振ってポン酢か何か垂らして食べるのも良かったかもしれないな」
などと思ったときにはもう食べ終わっていた。
じゃあそろそろいつものぬか漬けサイクルに戻るか、と満を持してきゅうりを仕込みつつ、その脇になんとなくこっそりと、また切り干し大根も入れる。
日常生活復帰を、辛抱強く待っていてくれた我が友ぬか床である。
切り干し大根はぬか床の中で行方不明になるので、排水溝用ストッキングに入れて漬ける。漬けたあとのストッキングはもちろん排水溝へ。