ちょっと高いハンバーガー屋さんへ行く。
チェーン店がハンバーガー界を席捲する中にあって、実に貴重な個人営業の小さいお店である。
だいたいどのメニューもマックの三倍くらいの値段の感じで、
「本来、まっとうなパテをまっとうなバンズで挟んでまっとうな調理法で提供するとこのような価格帯になるのであろうなあ」
ということをメニュー表前でしみじみ考えさせられる。
「注文がたてこんでおりまして少しおまたせしてしまいますが」
などと言われるので、ドキドキしながら待っていると、厨房のほうでは頻繁に豪快な火の手が上がっている。
注文のたびにパテ一枚一枚を直火当てながら焼いているのだから、そりゃあ多少たてこんだらてんてこ舞いになるのも道理である。
店内には獣脂の焼ける甘い匂いが充満してきてお腹がすく。
おまたせいたしました、とやがて届けられたそれはワンプレートとはいえ見た目にもずいぶん立派なもので、食べ方もわからないような金串つきの五重塔だ。
「軽く押さえてこちらのバーガーバッグに入れてお召し上がりください」
と、食べ方の手順を図解したガイドを置いていってくれた。
大きく口のあいた袋に恐る恐るハンバーガーを入れ、おごそかに金串を外す。
そうしていざ、なんとなく口に入りそうなとっかかりを探しつつ実食である。
存在感のあるバンズ、ずっしり牛肉、折りたたんでぎっしりはいっているパリパリレタス、トマト、アボカド。
なるほど、全員己のアイデンティティを保ちつつちゃんと居るな。
黙々と食べつつ思う。
「千円以上するものを手づかみで食べているというのはなにかこう、不思議なもんだな」
揚げ加減ばっちりのこんがり皮付きポテトにまぶしてあるのはおそらく岩塩であろう。
ハンバーガーというのは牛肉とパンであり、本来こんなに満腹になるものか。
大変空腹の状態で店に入ったのに、食べてる最中からもう満腹である。
お会計をするとバレンタインが近いということで、小さなチョコレートをひとつくれた。
ハイカカオのちょっといい輸入チョコである。
「美味しかったんだけど、ほんとう言うとバーガーキングくらいの方がちょうどいいかもな……」
と、思う。
なんかこう素材の味が生かされて過ぎていてこちらが勝手に生育過程で身につけてきた「バーガー感」から離れてしまった、というか。
思ってたのとちょっと違うというか。
……っていうか、もしかしてちょっとばかり味が薄かったんじゃないのかな?
こちとらチェーン展開のハンバーガーをハンバーガーだと思いすぎてるから、あの味がわかるまでに何らかの心構えが必要なだけかもしれないんだけども。
ポテトもあんなに絶妙な揚げ加減なのに、塩の混ざり具合にムラがあることでなんとなくぼんやり感があったから、アジシオを綺麗にまぶすともっとおいしいんじゃないかな。
いや、そうもいかないよな。たぶん私が馬鹿舌なんだしな。
というような考えにふけり、概ね満足だったのだけど思ってたのとちょっと違ったハンバーガー体験をあとにした。
ハンバーガーを手に、食べることに我を忘れすぎた人たちを置き去りにしてさっそうと孤島を後にするアニャ・テイラー=ジョイを思い出しつつ。