晴天の霹靂

びっくりしました

「下の人はそんなに困ってないんじゃないか」に一票

投票所へ向かう前の午前中、ここ一ヶ月の懸念事項である「階下への風呂の水漏れ問題」について、近頃懇意の元水道屋さん(a.k.a実父)に相談の電話をしてみた。

 

「……ごそ……ごそごそ……もしもし…ごそごそ」

「あ、ちょっと聞きたいことあるんですが大丈夫ですか。出先にいるんだったら夕方にでも掛け直します」

「……ごそごそ…いや、大丈夫。……ごそごそ(どうやらテレビ電話で受信してしまったので自分の顔が写っていることに超焦っている)」

「あの、古い集合住宅のお風呂の排水について聞きたいことがあるんです」

「はあ」

「うちでお風呂の排水をすると下の階の浴室の天井の隅から結露みたいにぽたぽた水漏れがしてくるという事案がありまして。

配管はうちの専有部分ではなくてコンクリートの下、つまり階下の天井にあって非常に面倒くさいと」

「古い集合住宅ならそうだろうな」

「このような場合、工事は可能なものであろうか」

「うーん」

「管理会社は直せないとかグズグズ言った挙げ句、うちを部屋替えさせて済まそうという態度なので、私の方で業者をさがして見積もり作って管理会社に送りつけようかと思っているのだけど、水道屋さんとしてはいかがなものでしょう」

「頼まれればやるだろうけどなあ。そのタイプの風呂は、床壊してみないと配管どうなってるかわからないんだよ」

「ははあ」

「集合住宅なら出入りの水道業者あるだろうから、そこならどういう構造か知ってるし、工事にいくらかかるかもわかるぞ」

「はー、管理人さんに業者の連絡先を聞きに行けばいいのか」

「そうだな」

「なるほどっ」

「……でもそれなあ」

「はい」

「今、風呂は使ってるのか」

「うん、管理会社がとりあえず使ってていいとか適当なこと言うんで」

「下の人そんなに困ってないんじゃないか」

「ん?……でもだんだん水漏れが大きくなっていったり天井腐っていったりするんじゃ?」

「そうだけど、金かけて直すより使える部屋に人をいれていって、だめになったらその部屋は使い潰していこうという、管理会社はそういうことだろう?」

「どうもそうらしい」

「今風呂を使っていていいって言ってるのもそういうことだろう」

「そうか」

「じゃあ、下の人も水漏れの迷惑料として家賃からなんぼか引いて貰うくらいのことでいんじゃないか」

「うちは何もしなくていいと」

「うん」

「……はあああ。その発想はなかった!」

「まずいことになってきたら管理会社もなにか考えるだろう」

「なるほど、考えてもみなかった。ありがとうございますっ」

物事は何も進捗していないのに、ここ一ヶ月の懸念事項がはほぼ解決したことに感動しつつ通話を切った。

 

一生のうちの長きに渡って、水道とか配管とかそういうことに向き合って地道な仕事をしてきた人なのであるなあ、と思う。

望めばほぼ全員が正社員になれた時代に、高卒ブルーカラーとしてまっとうな誇りと相応な待遇をもって社会に所属し、知識と経験を積み重ね、いたるところでライフラインを守り、子供をふたり育て、車と住まいも買って、老後も自分で賄った。

リタイアしてなお、門外漢の娘の水道トラブル相談に、目のさめるような実際的なアドバイスが可能だ。

オーナーが使い潰す気でいるなら安心して使い潰せばいいんじゃないかとは、さすが同じ遺伝子の流れを感じる大雑把気質(お父さん!)

 

「この人はこの人なりに色々あったろうけど、きっと職業人としてはまあまあ幸せだったんだろう」

と、私は思う。

よかった、苦労がちゃんと報われる時代の人で本当によかった。

 

それに比べて、誰に何を言っても一向に話が通ってなくて、こっちからせっつくまで何も言ってこないぼんくら管理会社の電話口の面々は、もっとずっと誇りと責任を持つのが難しい世の中で苦労の多い仕事をしているのではあろう。

個人としては全然お恨みするものではないが、私だけを適当に言いくるめればとりあえず安く上げられると考えるのはいい加減にしてくれないか。

我々はまず失われた誇りを取り戻そう。

しかるのちに、相反する利害についてちゃんと互いの言い分を持ってぶつかろう。

 

ちょっと良いウロコも落ちたし、さて選挙行こうか(父よ、ありがとう)