腰高窓の横にあるデスクに向かって仕事をしていると、近頃涼しくなってすっかり調子のいい猫が突然、
「んにゃっ」
と言いながら窓越しに私のすぐ脇に飛び込んでくる。
隣の部屋の掃き出し窓から出てベランダでひとり遊んでいたものを、私を驚かすためにわざわざこちらの部屋まで周りこんでジャンプインしてくるのだ。
「ペプシマンかよ!」
と驚くと、猫は満足そうに尻尾を振り立てて、またどこかへ消えていく。
この世界に生まれでて五年ほどの猫がペプシマンのCMを知ってるとも思わないし、
日本語の時代錯誤なツッコミまで聞き分けられると思っているわけでもないが、
とにかく
「やった。ウケた!」
ということまでは自信を持っているようで、近頃はドヤ顔でしばしばこれをやりたがる。
正直、わりとびっくりする。
そんな猫にちゅーるをやるときは間近で顔を見たいので、腹ばいになって同じ目線で構えるようにしている。
無駄なく食べられるように小袋の後ろの方から折りたたみながら絞り出していくと、スティック状の袋が短くなるに連れて猫と私の顔の距離も順調に近くなる。
ふと、
「これってだいぶポッキーゲームっぽいな」
という気になる。
せっかくだからこの機会に猫の鼻先を舐められるかどうか試してみてもいいのではないか。
思えば猫を飼っておいて、普段から舐められる一方というのも理不尽な話だ。
必死に舌を伸ばしてちゅーるを舐めている猫の鼻先めがけて、こちらも限界まで舌を前に伸ばしながら、ちょっとずつちゅーるの袋を折りたたんでいく。
「もうちょっと!もうちょっと!」
と盛り上がってきたあたりで、突然猫がドン引きした表情をして頭を後ろにすっとひくのが分かった。
ちゅーるの袋がもう空だ。
ポッキーは途中で折れるものだし、ちゅーるは途中でなくなるものだし、フォークダンスは好きな子の前で終わるもの。
知ってる知ってる。
そういえば昔から世の中ってそういう場所だった。