一回目ワクチン接種に行ってきた。
たまたまコネで大学の接種会場で受けさせてもらった都合で、周囲に若者が多い。
受付で予診票を出すと
「学生証ありますか」
などと聞かれる始末。
あらやだっ。まー、なんということでしょう!
などとモッキモッキしながらマイナンバーカードを差し出すと、つつがなく本人確認が終了する。
「年齢の欄書いてないんですけど、おいくつですか?」
「あっ……よんじゅう……さん?(照)」
「あと日付のところ、4日って書いてますけど今日は5日なので線引いて直してもらえますか」
「あ。えへっ(照)」
愉快なコミュニケーションをしつつ次々と検温やら受付やら順番待ちやら突破していく。
いろんな人がいろんなところでいろんなことを話しかけてくれるのだけど、こちらもマスク、相手もマスク、ときには間にアクリル板があったりもするのでほとんど何が何やら聞こえない。
きっとワクチンチケットの注意書きにあったことを説明してくれてるに違いない。
今できる最大の協力はこの流れ作業をできるだけそつなく短時間で突破することであると踏んだ私。小刻みに首を上下に振りつつ
「ふむふむ。ふむふむふむふむ。おっけーい!」
くらいの勢いで愛想よくわかったフリをして前へ。
3割くらいしか聞き取れていないが、アレルギーとか解熱剤とかそういう話をしてるような気がする。
ついに医師のところまでたどり着いて座ると、驚いたことに、
「こんにちは。間黒男と申します。今日はよろしくおねがいします」
と自己紹介をしてくれる。
えっ、ここからそんなに長いお付き合いになるのっ?
と驚いた私は、もじもじしつつ
「よろしくお願いします」
なんて会釈を返す。
こちらも名乗った方がいいのだろうか。
なんなら大人として「お休みの日は何をしてるのか」ぐらいのことをにこやかに聞きにいくべきか。
そんなことを考えているところに
「利き手はどちらですか?」
と、間黒男からいきなりど直球で積極的な質問である。
動揺を押し隠しつつできるだけ落ち着いた声を出す私。
「右です」
「はい、じゃあ左手に打ちますねーっ」
と左側に立っていた女性の看護師さんが元気よく引き取って、テキパキと注射器を構えるではないの。
あっ、はい。もちろんお願いいたしますけども、名前教えてくださった方が打つわけじゃないんですね。わりと結構なフェイントだったんでびっくりしました。いやいや、あ、アルコールのアレルギーとかはないです。そこそこ鈍感なほうなんで思い切りぶすっとやっちゃってください。ぶすっと。
具合悪くないですか、と右手にいた間黒男に聞かれて、はい大丈夫です、とちょっと視線をすべらせ気味に答える。
本当は筋肉注射ってあんまりしたことがないので打つところを見ていたかったのだけど、視界から外れた後ろの方から打たれたのでほとんど見えずに残念でもあった。
じゃあ、こちらで15分様子見てください。
パイプ椅子がずらり並べられたところに案内され、正面の時計を表示されたデジタル掲示板を15分間じっと見つめる。
私にとって、間黒男とはなんだったのか。
15分立ったら静かに挙手。
また「大丈夫?」などと何人かの優しい人たちが親切にしてくれる中をくぐり抜けて終わる。
副反応では、結構高熱が出るとか、二三日腕が上がらなくて不便だとか、いろいろ賑やかな話を聞くのでちょっと楽しみにもしていたのだけど、
「なんだ。みんな大げさだなあ」
などと思ってしまうほど何も起こらない。
夜中、ふと見ると熱帯のヤバめの蚊に刺されたくらいの勢いで腫れて赤くなっている。
「はて、これは?」
面白がっていろんな人にいろんな副反応を聞いて回ったが「腕が腫れ上がる」というのは聞いたことがない。
こういうパターンもあるものだろうか。
ということで、そこはやたらに答えを欲しがる現代人「ワクチン 腫れる」と検索してみる。
「モデルナアーム」と言って、モデルナワクチンを打った18人に一人の割合で出現、しかも八割が女性に出る副反応、と書いてある。
「なーんだ、むしろ一般的なやつじゃん。言ってよーっ」
などとちょっと思ったものの、むしろ言ってくれていたのに私が「ふんふんふんふん」と聞こえもしないのに元気よく頷いていた可能性もあって、きっと悪いのは私である。
腫れた後で熱が出るというような例も書いてあるので、念の為、ごそごそと布団を抜け出し、アイスノンを冷凍庫に仕込んで発熱にそなえた。
一夜明けて、やや腫れは大きくなり、「これくらい腫れれば、そりゃまあこれくらいは痛むでしょうねえ」という程度の妥当な痛みはあるものの、日常生活に支障があるほどでもなく、比較的平穏。
鏡の前を通るたびに「モデルナアーム出現、シャキーン!」と、ポーズを取る一日である。
間黒男先生、およびとても親切なワクチン接種会場の皆様本当にありがとうございました。