晴天の霹靂

びっくりしました

朝顔の蔓に追いかけられる

なんとなくいつもより疲れやすいような気がして

「なんだ、何事だ、何の体調不良だ?」

と思ってそわそわしたが、落ち着いて考えたら残暑のせいだ。

今年は夏の滑り出しが異様に暑かったせいで気温に対する警戒心がちょっと平年とずれているが、30度超えると、人類にとってはまあまあ暑い道理である。

 

ベランダに出たらひと夏かけて放置された朝顔が咲いていたのでたいそう驚いた。

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自分で撒いたくせに、咲いたらびっくりするほど何の面倒も見られなかった朝顔は、支柱もないままに、ベランダを延々と横に這って歩き、風情も何もあらばこそ排水溝の上にたった一輪ぽっかり咲いたのだ。

 

「ごめん!本当にごめん!ひょっとして勝手に咲いたりしたらおもしろいかな、と思って考えもなく種だけ撒いちゃったんだ、優しくしてやれなくてごめん!」

慌てて後悔の水をやる。

たしか、朝顔というのは日照時間が長いあいだはとにかく蔓を伸ばしてできるだけ遠くまで行こうとし、日照時間が短くなってきたらもう伸びるのはやめて、全ての生命力を投入して種を増やすのに専念するのでなかったか。

プランターから排水溝まで。

大した水や栄養に恵まれなかった身の上には、苦労の長旅だったことだろう。

 

これがルトガー・ハウアーみたいなレプリカントフランケンシュタインの怪物だったら

「自分の一存で生命だけ与えて、どうして必要な愛は与えなかったのだ」

と部屋の中まで延々追ってきても不思議のないところではないか。

 

花は何か、生贄のような感じがする。

きっと生命体にたくさんの負担をかけて、土と水を材料にこんな鮮やかな色を突如作り出すのだ。

それはなぜといって、やっぱり私に向かって

「ほら見ろ。ほら見ろ」

と言っているからではないか。

「ごめんごめん。ありがとうありがとう」

喜びながら、謝りながら、なにかザワザワしながら、驚きながら、夏の終りの、後悔の水をやる。

今年も、夏が終わってしまう。