南北の窓を開放すると風がよく抜ける造りになっている我が家のいたるところを
猫がせっせとウロついていている。
小走りでキャットタワーからリビングへ、クローゼットへ、廊下へ、書庫へ、とせわしなく移動する後ろ姿を目で追えば、小刻みに揺れるお尻のあたりに
「あー、忙しい忙しい」
という吹き出しが浮いて見えてる。
人間が見ても何の用事なのかはさっぱりわからないが、一人で忙しがってるときの猫というのはたいへんに可愛い。
喉元の鈴をクリスマスのようにチリンチリン鳴らしながらリビングに駆け戻ってきた猫は、突然、はたと立ち止まり
「そうだ、サラダバーへ行ってこよう!」
と思いつく。
そのままトコトコと土足でベランダへ出ていって、私が大事に育てているプランターの豆苗の中へ顔を突っ込んでもっしゃもっしゃと食いちぎった。
うまそうである。
「それ、私の夕飯なんだけど」
窓際まで出ていって抗議をするが、もうすっかり自分専用の豆苗畑と決めてしまった猫は私のことなど意に介す素振りもない。
たのしそうに青草の中に鼻先を埋めている。
肉食の生き物ゆえ、炭水化物はあまり消化によくないのではないかと思ったが、どうやら豆苗を食べているときのほうがあまり餌を吐いたりすることもなく却って快適そうにも見えるし、しばらく放っておくことにしている。
こたつの中にばかりこもっていた長い冬の後で、日光や、日光をたっぷり浴びた草の匂いが、きっと気持ちがいいのだろう。
「また伸びたら続きたーべよ」
と、思ったのかどうか、半分ハゲ山みたいになった豆苗畑から突然顔をあげて、タッタと小走りでリビングの中へ駆け込んでくる。
ポケットにおやつの残りを入れて公園へ走っていく小学生みたいだ。
「足拭いて入りなさいよー」
何が面白いのか毎回同じ戯言を飛ばしてくる飼い主を無視して毛づくろいをすませると、ふすまを取り払った涼しい押入れの中に入っていく。
暑がりな猫のために接触冷感のハーフケットをかけてやっている布団に飛び乗って、手足を長く伸ばして食後の昼寝だ。
なにそれ、夏の猫ってなんでそんなに楽しそうなの、なあおい。
しまいにはなんだかちょっと悔しいので、立っていって丸い背中のあたりをツンツンつついてみるが、もうすっかり、彼女は日向と風の夢を見て遠くで遊んでいるのである。
前々からちょっと気になっていた接触冷感のタオルケットをニトリで買ってみたら大変に気持ちが良かったので、小さいのを猫にも買ってやった。
猫も大変に気に入ったようで、今年はふたりなかよくひんやりしている。
猫ってほんとうに、ずっとずっとずーっと夏への扉を探してまわっている。そしてついに夏は来る。人類は彼らの希望の持ち方に平伏せねばならぬ。