晴天の霹靂

びっくりしました

1996年のエヴァンゲリオン ~ニーハオ君と私の貸間

コロナ感染症拡大のおかげで公開が再延期になってしまいましたが、話題になるところでは話題になってるんであろうエヴァンゲリオン劇場版。

私がごとき”見てない勢”にとっては、どのカナ表記が正しいのかもよくわからないし、「あのロボットがさー」とか言おうものなら「あれはロボットじゃない!」と怒られたりするし、「ちょっと怖い例のやつ」です。


『シン・エヴァンゲリオン劇場版』本予告【公式】

 

直撃世代ではあるので遅れを取りながらも何度か見ようとトライはしてるんだけど、どうにもあのシンジ君って人にイライラさせられて風呂場からペンギンが出てきたあたりで必ず挫折してしまう鬼門でもあります。

私にとっては風呂場にペンギンが住むロボットアニメとして記憶されている(しかしおそらくそれは間違えている)エヴァンゲリオン

「今ならそんなにイライラせずに見ることができるのではないか」

と、近頃ふと思ったのです。

 

思い起こせば最初の出会いは1996年。

大学に入った年で私は一万八千円の六畳一間に住んでおりました。

その薄暗い廊下で斜向いに住む男の子と最初に顔をあわせたとき、彼は片手を上げつつ大声で「ニーハオ!」と声を掛けてきたのです。

私はびっくりしてとっさに返事ができませんでした。

正確には、あまりにも不意打ちだったので「ニーハオ」すらも聞き取れず、何かよくわからない言葉を知らない人から突然投げかけられたのだと思いました。

とっさに言葉に詰まって考え

「……今の、もしかしてニーハオって言ったのかな?」

と思いついたあたりで彼は

「こんにちは」

って言ったではないですか。

普通に日本の学生でした。

なぜ出会い頭にとりあえずニーハオが出てきたのかは、今もって本当にわからない。

彼は自分の部屋に吸い込まれていきしなに、ドアを大きく開き、そこに貼ってあるポスターを指差して早口で言いました。

エヴァンゲリオン。知ってます?」

「……わかんないです」

彼はさほど答えに興味ある風でもなく、自分の部屋に入っていき、パタンとドアを閉めました。

それが、1996年、私とエヴァンゲリオンのファーストコンタクトでした。

 

今となってはそんな素っ頓狂なコミュニケーションのとり方とアニメ好きであることを結びつけるのはえらい古臭く差別的なステレオタイプ表現と言えますが、当時はまだそういう雰囲気は本当に存在したのでした。

そして私は私で、テレビも持っておらず、買うつもりもないのでそのエヴァンゲリオンとやらは一生縁のないものであろうと信じて疑いも持ちませんでした。

まさか、仕事に必需品であるパソコンが一台あればどんなアニメでもほぼ見放題、みたいな未来が来るなんて、思ってもいない頃です。

 

2021年、コロナ禍の後押しもあって万人がメディア化したといえる中、エヴァンゲリオン新作公開の情報があり、ファンたちがこぞって過去作について色々と語っては公開するのが目につくようになりました。

気づいたことは、エヴァンゲリオンには苦手意識ある身にとっても、エヴァンゲリオンについて語っている人には結構面白い人が多い、ということです。

異口同音に「わからない」といいつつ、そのわからないものについてしゃべることしゃべること、映画一本分を優に超える「俺のわからないバナシ」を楽しそうにするではないですか。

さすがに全部付き合ってはいられないので二倍速再生などしつつも、十代で見始めた人々が中年になってもまだ同じテンションで「わかんない、わかんない」とキャッキャしてる風景には嫉妬を覚えることではあります。

そういえば、かのニーハオ君は、どうしているのか。

 

シンジくんがやたらブツブツ言っていたころ大学生になった我々は、卒業と同時に「フリーターか、うつ病か、自殺か。自己責任でよーいどん」という号令をリアルに聴き、右往左往しているうちに耳に入ってくるようになったのが「失われた十年」という新語。

なるほどあの十年はやはり何か失われた特別な時期だったらしいが、それも終わってこれからあるべき場所まで取り戻されてゆく正常化の時代が来たという言葉かな、などと初心なことを思って居た頃までがそれでもなんとか青年期。

いつのまにか敵は「失われた二十年」へと成長を遂げており、「うっそ、いつの間に巨大化した?」とびびっているうちについに失われた三十年までも見え始め、ぼちぼち故郷の田舎で痛風になる同級生なども出現。

シンジ君がまだ1996年のの羊水の中でブツブツ言ってるとしても、今こそむしろ共感できる。

君は先見の明がある、ずっとそこに居るべきだ。

 

そんな郷愁を持って一日に一話ずつなら、今なら見られるのではないか。

そしてそんことをやってるうちに新作の公開時期も決定して、今度はみんながキャッキャと楽しそうに語る中に、入れるのではあるまいか。

 

 


【公式】新世紀エヴァンゲリオン 第壱話「使徒、襲来」

さしあたって一話を見てみたのだけどキャラクターの造形と女性がみんなボディコンぽいところはやっぱりちょっと苦手。

しかしこちらも大人になって、未来人としての余裕をもちつつ「はい、これ市川崑」「はい、これ巨神兵」「はい、宇宙戦艦ヤマト」といちいち答え合わせしながら見られるのはハッキリ言ってわりと楽しいもんですね。