我が家はこたつのスイッチを七時間で自動オフにしている。
真夜中、いつの間にかスイッチがきれると、猫は冷え始めたこたつを這い出して私の膝の上にのってくるのだ。
こたつのスイッチを入れてやっても、一人で寝ることにちょっと飽きているのであろう、しばらく膝の上で遊んでいく。
ゴロゴロ言いながら膝に乗って香箱を組む冬の猫は柔らかくて暖かく、人猫ともに幸福度が一致する奇跡の瞬間だ。
手をそっとキーボードからおろして、香箱を組む前足の間に指を差し込むと、もうそのまま「指に猫型手袋をつけている人」として生涯を暮らしてもいいなと思うくらい、最高の手触りが味わえる。
そんな冬の猫との最高の戯れの折々、肉球マッサージがてら色々触っていると、猫の爪はだいたい決まって伸びている。
日頃からそう容易には切らせてくれないからだ。
「こんなに尖ってきてるのだから家庭の平和のためにそろそろ切りたいな」
などと企みつつ、もぞもぞ触り続ける。
ひと思いに切りたいところではあるが、爪切りを取り出せばその途端、このホカホカしたものは膝からこたつへ舞い戻って行ってしまうであろう。
こんなに気持ち良いのに、もったいない。
しかし、今を逃せばこのあと切る機会はなかなかないかもしれない。
寒い季節にゴロゴロ言う暖かい毛玉を膝に載せておく幸運と、何かの拍子に鋭く尖った爪をしまい忘れたままじゃれている猫に肌を引っかかれるという不運。
この2つを天秤にかけて、答えはなんと出るか、
「……というところなんですよ、マロさん」
ぬばたま色をした猫はこちらの目論見など恐れるでもなく、膝の上で生臭いあくびをし、ちょっと腕なんか組み直してナニゴトもなかったかのように今日も自由に生きている。完敗。