晴天の霹靂

びっくりしました

猫を暖める冬

気象情報を見るにそれほど極端な気温の低さでもないのにやけに寒すぎる気がする、と思っていたら今年は階下が空き部屋であることが理由なのかもしれない。階下に住人が居ないというのは気を使わないので楽なことではあるけれど、暖房を使って我が家の床を温めてくれる人がいないという意味でもある。

 

ここ数日、洗濯物が全然乾かないので小さな電気ストーブを出した。少しつけておくと、こたつがもこもこと動いて布団の下端から黒い鼻先が登場する。久しぶりに見る暖房器具をしばらく遠回りにぐるぐると検分した挙げ句、何の納得がいったのか、ストーブの正面、洗濯物の真下に情熱的を込めて座り込んだ。額を寄せあって秘密の話をしているのかしら、と思うくらいの至近距離である。

「ヒゲと尻尾の先焦げるよ。あとこのへん冷たいよ」

と、ちょっと距離を取らせつつ万遍なく暖を取らせようと色々話しかけながら割って入ってみたりするが、恐ろしいほどの集中力を持ってストーブの一点を凝視している。なぜ猫はそこまで真剣に火に当たるのか。

 

「じゃあ、こっち消すよ」

と、丸い背中に声をかけてこたつを消すことにする。高騰する一方の光熱費を考えれば、猫の行く先々すべてを温めておくほどの贅沢はできいないのだ。快適に住んでもらいたいのはヤマヤマだけど、そこは譲り合ってやっていくしかない。

声をかけられた猫はストーブにへばりついたままくるっと振り向いて、なあに?という顔をした。やだ、超かわいい。

「あんた、かわいいねえ」

などとうっかり脳内ダダ漏れの声を出すと、何を思ったのか「あ、ちょっと待ってやっぱりそっち行くから」とやおら舞い戻ってきた。猫可愛さに魂を抜かれた飼い主は、有耶無耶のうちにまたこたつのスイッチを入れることになる。

 

猫がどこかから出ればスイッチを消し、どこかに入ればスイッチを入れ、洗濯物のためには小型ストーブをつけ、そうやって自分以外のものを暖めるために、あっちつけ、こっち消し、している本人はハクキンカイロを首からぶら下げて湯たんぽを抱いて暮らしているのである。

ふと見ると、いつのまにか猫は電源の入らないホットクッションの上に座っている。「あ、そっちにするの?」と慌ててスイッチを入れてやり、翻って再びこたつの電源を切った。

 

……もしかしてこの子、私をからかうためにわざとやっているのではあるまいか?