晴天の霹靂

びっくりしました

『関心領域』 ~どこをとっても居心地悪い

『関心領域』観てきました。

ずっと変な音がしていたよ。


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こんなにわざわざ計算され尽くした「不愉快な映像」を観る機会ってのもなかなか無いな、と思いつつ観ましたが、非常に面白かったです。

 

予告映像ではアウシュビッツ収容所の隣で暮らしている「幸せな家族」とわざわざテロップで出してるんですが、本編を観ると、誰も本音を言わずに各々割り振られた「模範的な家族像」を演じてるだけで、およそ幸せそうには見えないのが印象的です。

尊敬される一家の主として振る舞っていたお父さんは転属があっても家族についてきてもらえないし、頑なに「ここで暮らして幸せ」と言い張るお母さんは夫に裏切られ母親にも見離されるし、子供たちは毎日響いてくる不穏な物音を真似たおかしな遊びを繰り返したり、夢遊病めいた感じで夜中に暗がりに座っていたりするし。

誰も本音を言わないことで仲良し家族っぽい外枠を維持してはいるものの、明らかに無理のある無関心を装っていることで内側から空洞化してる様子が、セリフもなしに徐々に明らかになっていく非常に怖いホームドラマでありました。

 

朝日新聞の人生相談コーナーでコメント欄やらSNSやらを巻き込んで『関心領域』が話題になっていたのが、ちょうど観に行こうとしていた矢先のことでした。まさか大手新聞社までこういうタイミングを当て込んでわざと炎上させてるわけではあるまいと信じたいところではあるものの、非常に不可解な一悶着ではありました。

本気で「政治的に無力ならそもそも関心を持たないほうがいい」というポリシーの人が中にいるのだろうか。

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生身の人間たるもの、場合によっては関心領域を制限していかないと生活の中で自分の心を守れないという側面があることには共感もしますが、居直って考えることを放棄してしまうと暗闇の中で死ぬものはあまりにも大きいし、そのなかには自分自身の感受性や未来も当然入っているのですよね。

劇中ではユダヤ人の来そうな場所にリンゴを置いてまわる少女が出てきます。彼女の行動が直接的に誰の命も救うに足りてなかったとしても、せめてりんごを置こうとする気持をもつ人がひとりも出てこなくなった社会は、存続不可能であろうな、と思ったのでした。