『アイアンクロー』を観てきましたよ。
私自身はプロレスもエリック一家に関する知識もほぼゼロではありますが、世代的には”ゴールデンタイムにテレビでプロレスやってた時代の人”ではあるので詳しい知人を探すには苦労しないのです。
「アイアンクローについてなにか知っておいた方がいいことある?」
と事前聴取をしてみたら
「悪役だけど本当はいい人なんだよ」
とわかるようなわからないような豆知識。というわけで徒手空拳で観てきました。
どれがどのマッチョなのか途中でわからなくなったりするので、元の人物を知ってる人の方が楽しめるだろうな、という気はしたものの、わりと楽しく見ました。
しかし生まれつき家族全員がプロレスラーだと、なにかあってもやめ方がわからなくて地獄。そして20代やそこらのあどけなくて基本的には犬みたいに兄弟同士で和気あいあいやっていたいだけの男子たちが真面目に命を縮めていくのを観るのは辛い。
プロレス無知勢としては、兄弟の中で唯一、プロレスをやめて生き残った長男ケビンが妻パムさんとの初デートのシーンがなかなか良かったです。
パムさんはなかなか賢い人だし、プロレスラーに声掛けるくらいだからマッチョも好きなんでしょうがそれでも食事のときに
「ぶっちゃけプロレスってやらせでしょ?」
みたいなことを言っちゃう人でもあるのですね。
「あ、いかん。私もよく知らないジャンルに対してこういうこと言いがちなタイプだわ」とハラハラしながら見てたらケビンが
「ちゃんと技があって客を興奮させられる人しか勝てないよ」
と明快に説明。聞いてるパムさんも、なるほどこの人たちは真剣にやってるんだということを理解して防衛的になるでもなくそれ以上余計なことを言わない、というちょっと良いコミュニケーションを見たのでした。
座席の中で私も「手のひらで側頭部掴むより向こう脛蹴っ飛ばしたりする方が全然痛いんじゃないの?」とか思っていたことを反省した次第です。
後半、一家が次々不幸に見舞われていく中で、バイク事故にあった三男ケリーが義足でプロレスに復帰した、という経緯が理解できずに、なんとなくぼんやりしていたのです。
鑑賞後にプロレスガチ勢に「誰も気づかなかったけど実は途中から義足だったんだよ」と説明されて「そう言われてみればそう描かれてた!」とやっと理解。恐ろしすぎて脳が理解を拒否していた。というかちょっとわかりにくい描写でもあった。
技があって観客を興奮させることが彼らのやっていることの本質であるならば、そんなに大きな人生の刻印と身体的特徴を「なかったこと」として振る舞ったりするのでなくてパラアスリートとして新しい形でみせていく興行もいくらでもやりようがあったんじゃないかしら、などと思ったりするのだけど、できあがってしまった家族帝国の中で親父の理解可能なマチズモの外に世界なんかないと、みんなが思い込んでしまったことだけは、まあ呪いといえばそう見えました。
辛いところは辛いけど、兄弟ラインダンスのシーンとか非常に素敵で、なかなか良かった。