雪が溶け始めたころから近くの公園ですごく大きな望遠カメラを抱えた人が目立つようになっていた。
木立の多い公園なので野鳥やらエゾリスやらを撮影に来ている人はもともと多い場所なのだけど、ここにきて急に人数が増え過ぎだし、みんな示し合わせたように同じ斜面を狙って待ち構えているのも奇妙な光景だ。
「さて、なんだろうか」
気になるのだけどなんだかわからぬものを一緒に並んで待つのも気恥ずかしい気がして、そのうちわかるだろ、と素通りしていた。
世間は連休に入って、武器並みに大きなカメラを構えた人たちの群れは一層増えて今やちょっとしたパパラッチ現場に見える。
パパラッチ増加に伴いその人達の視線の向かっているあたりも限定しやすくなってきて「これはどうやら」と推測しやすくなる。
斜面にいくつかある木の下の洞のあたり。
「あんなところをうろちょろするのは、狐か」
と思って立ち止まってぼんやり立っていると見せびらかすかのように黒っぽい茶色っぽい丸っこい毛の塊がころころと転がり出てきた。
きゃーかわいい。と、黄色い声がでるほどの悩殺インパクトなのだけど、重たいカメラを持って長時間シャッターチャンスを狙っていた皆さんは物音ひとつ立てず黙って可愛らしい姿にピントをあわせる。
狐はぱっと見はほとんど犬でよく見ると顔が少し尖っている印象を受ける生き物であるが、子狐は特有の丸顔のせいで、もはやどこに出しても恥ずかしくない立派な子犬である。
越冬の間にだいぶ成長もしてきたし、暖かくもなってきたし。
手狭になった巣穴を抜け出して遊びながら少しずつ自分の世界をひろげつつある彼らは、居並ぶ人間たちにも興味津々で、まろび出てきては見晴らしのいいところに突っ立ってこちらを見つめて人類の内心を大歓喜させている。なんという無警戒なサービス精神。
生きてるだけで楽しくて仕方ない彼らを見てるだけでも楽しいし、連休に何時間も突っ立ってそんな子狐を見つめている「いい大人」の後ろ姿を見ているのも結構楽しい。
そうかあ、子狐だったかあ。これから独り立ちするまで、ずっと見に来られるなあ。
こちらはすっかり親戚の気分になる。親戚の子に会いにいく連休ごっこ。