晴天の霹靂

びっくりしました

春の小学生

信号待ちをする横断歩道の向こう側に小学生がずらっと居る。

なるほど連休前というのはたいしたもんで、全員が目を見張るほどはしゃいでいる。

それにしてもきれいに端から端まで並んでるもんだなあ、と思ったら、なんと全員「よーい、どん」の姿勢を取って信号が青に変わるのを待っているのだ。

向こうの通りにはびっしりの小学生。対するこちらはまんなかにぽつねんと立っている私ひとりだ。

君たち、ちょっと待ちなさい。おそらく君らは信号が青になった途端に一目散に走ってくるつもりでいるのであろうが、

「いったい君たちの視界に、私の存在は見えているのかっ?」

さすがに私が小学生に跳ね飛ばされることはないような気がするが、こちらが小学生を跳ね飛ばすとあっても支障がある。

なんとか間隙を縫って避けようにも、本当に端から端まであますところなくみっちり小学生は詰まっていて、元来たいして機敏ではない私をしてやりくりできる状況とは考えにくい。

いっそ今からくるっと振り向いて一目散に逃げ出してもいいが、車通りもあることだし、それはそれでなんとなく恥ずかしい。

 

などと考えているうちに、時は満ちてついに信号は青に変わった。

刹那、「わーっ!」などと歓声を上げつつ、興奮しきった群衆が雪崩れてくる。

「すごい、マーベル映画のクライマックスシーンみたいだっ」

などと感動を覚えつつ、ままよと立ち向かう孤立無援の中年一人。

そうして新旧の勢力が相まみえる横断歩道の真ん中へん、あんなにびっしり横並びになっていた小学生たちは、目に見えるけど触れない不思議な粒子みたいに、ふわーっと私の身体を通り抜けてなんの支障もなくカオスのまま向こう側の歩道までたどり着いてしまった。

「あれ?私もあの子たちも別に互いを避けてはいないと思うが、なぜぶつからなかったのか?」

などと狐につままれている間に、背中のほうでまた信号は赤になり、新たなる小学生が道の向こうから補充されてきている気配。

また予測不能な事態に巻き込まれる前に急いで逃げ出そう、と足早に立ち去りつつ、春たるもの、新緑から、花のつぼみから、地から出てきた虫から、浮かれ小学生まで、なにもかもがワクワクしていていいもんだな、と思わないでもない。

ぶつかりそうでぶつからない、それが春の小学生。