晴天の霹靂

上品な歩き方とかを習得できないまま人生を折り返すとは

去年今年こたつは猫の夢の国

ありがたいことに今年も良い正月を過ごした。

 

毎年、「こんなにたくさん作ってどうするのか」とひとりで呆れる正月用の料理も、老父におすそ分けしたり、友人にふるまったりするうちに、新年三日目には、はかったようにぴったりと底をつく。

中でも、これまでは不精してレンジで作っていた田作りを、今年は地道にフライパンで乾煎りして作ったらめっぽう美味しく、来年からもこれで行こうと決める。

今心に決めても360日後くらいには確実に忘れているので、正月料理用のレシピ集の欄外に2023年分の覚書として

「田作りはフライパンでつくるとうまい」

と書き込んでおく。

毎年欄外にごちゃごちゃと書いたメモの集積も三年分となった。

 

年越しは迂闊にも紅白歌合戦をしっかり最初から最後まで見て楽しんでしまった。

数十年ぶりに聞いた加山雄三の『海その愛』にはとにかく驚いた。

今やこのSNS時代の感覚で聞けば

「そもそも海はお前のものじゃないしな」

というツッコミとともに滑稽なものとしてバズってしまいそうな、限りない未来への希望とマッチョな上昇志向ソングである。

しかし私が記憶にある子どものころ紅白で聞いたはずのこの歌は、たしかに当時勇壮なロマンの曲であったのだ。

「年のわりにはずいぶんしっかりしてるなあ」

と感じさせる85歳が、今や世界のどこにも実在しない黄昏れた希望を歌いあげ、嬉々として舞台から去っていくのを、下の世代が呆然としながら見送るステージこそが、まさに令和というものであろう。

 

新年は朝からアレクサに歌を詠ませながら百人一首を取るのがもう何年も恒例になっている。

百人一首なんて一人でやるもんじゃないだろう、と思う向きが多いかろうことは想像に難くないが、実はなかなか面白いのだ。

自分では結構覚えているつもりでいる和歌が全然頭に入っていないことを、年明けそうそう確認できる。

「来年こそもうちょっと取れるようになっておこう」

と思いはするが、ここ数年取れる歌の数はあまり変わらない。

 

 

久しぶりにあった友人の子らと桃太郎電鉄をする。

ゲームにはまったく疎い私はなにがなにやら把握もできず、言いなりにサイコロだけ振っていたところが最終的に14億以上の資産を築いてひとり圧勝。

どんなものでも金があると言われると人間態度がでかくなるもので

「今生最高の羽振りの良い正月だ」

と思いつつ寝て起きたら14億はどこにもなかったのでずいぶん情けない思いをした。

金などそもそも単なる概念なのに、使える概念と使えない概念があるのはなぜか。

 

大型書店へでかける。

年初に書店へいくのは大変いいものだ。

普段は電子書籍リーダーを圧倒的に愛用していて、本を置くスペースの都合上

「電子版の出ていない本は買わない」

くらいのことを言いさえするが、それでも実際書店へ行くと、電子版の出ていない良い書籍を山ほど見つけるので困ってしまう。

紙でないと意味をなさない本が欲しいと思ってこうの史代さんの百人一首を買う。

目からウロコの百人一首の遊び方、本当に楽しくて帰宅後ずっと眺める。

今年はもっとたくさん本を読もうと思う。

 

正月中に家で見た映画。

ハリーポッターシリーズの1と2。

なぜかNetflixが元旦から強烈に推してきたので、うっかり鑑賞。

前から思っていたのだが、スター・ウォーズ新トリロジーアダム・ドライバーの芝居はハリーポッターのスネイプ教授から着想を得てるんじゃないかしら。

せっかく大きくて素晴らしいセット作ってあるのに、話がハリーを取り巻く三人とその他数名の中だけで回ってるのがちょっともったいない。

全員が「ハリーの引き立て役」感が思ったより強かったのが驚いた。っていうか先生方の依怙贔屓すごいよな。

 

 

アンタッチャブル

だいぶ久しぶりに見たけど本当に夢中で見るほど面白い。

アル・パチーノがバットを持った瞬間にあまりの不吉さに目をそらし、乳母車の中で赤子が泣き始めた瞬間にイライラして中腰に。

どっちのシーンもあんなに長かったとは、思わなかった。

音楽も撮影もセットも嫌味なほどかっこよくて最初から最後まで余すところなく堪能。

とはいえ、出てくる女が全部飾りであることに関してはもちろん不満ではある。

「他人の家に世話になりながら新居の台所の壁の色を考えているワイフ」じゃないよ、ほんとに。

 

パソコンから離れられた時間が長いお正月がしんみりと楽しかったので、2023年はもっとタイパの悪い人生を選んでいこうと心に誓った。