晴天の霹靂

びっくりしました

猫の迎え火

2020年の夏に、虎猫が病死してから、我が家は盆の入りにベランダで蝋燭を灯している。

猫はすばしこい生き物だから、亡者のために地獄の釜の蓋が開いたときに、するりと端っこあたりから滑り出して駆け戻ってくるとして、集合住宅の同じ間取りばかりでは迷ってしまわぬともかぎらないから。とは、私の考えた猫の迎え火のストーリーだ。

心を癒やすために虚構を構築して、それを現実に作用させられるのは人間のもつ最大の能力のひとつではないか。

 

非常用のプラスティックボックスから小さい蝋燭を一本取り出して火をつけて、消えるまでの20分間、暮れていく夏のベランダでぼんやりとしゃがんで見ている。

手のひらをかざして時々ふいてくる風から小さな明かりを守りつつ、炎が珍しくて恐る恐るのぞきにきた黒猫に「お兄ちゃんが帰ってきたら、ちゃんと知らせなさいよ」と声をかけた。

そうか、遠いかもしれないから、乗り物もいるかい?

思いついて、庭で小さな家庭菜園を作っている友人からもらってきたばかりの大きな胡瓜に爪楊枝を刺して、胡瓜馬を作った。

ずいぶん大きい馬だから、なんなら友達も連れて帰って来たら良いよ。

蝋燭が消えたら胡瓜は回収して、私の夕食。

 

お盆のおかげでまた猫二匹と一緒に暮らして居た頃の幸せな気持ちを思い出して過ごせる貴重な夏の3日間。