猫缶、というとたいていは猫餌の入った缶詰だが、我が家の猫缶は猫柄の缶だ。
全面に猫また猫が浮き出していて最高にかわいい。
隅々まで見ても何の缶なのか全然わからないところが洒落ている所以だが、これはベルギーあたりのクッキーが入っていた。
ジンジャーとオレンジピールの二種類入っていて、日本のクッキーよりスパイシーかつザクザクしてとても美味しかったのだけど、とにかく目当ては猫缶であった。
カルディで売っているのに気づいてから、まだ売れてしまってないかどうかだけを確認するためについつい足繁く店に通ってしまう。
そんな私の姿を後ろから見ていたサッチモが突然ポンと買ってくれた、という話でもないのだ。
放っておくとブリキ缶なんか大変に好きな方で、貯まるとしまい場所に困るばかりなので、そうそう気安くは買わない。
ぐずぐずしていたある日
「そうだ、化粧品を入れるのにちょうどいい」
と気づいたときは嬉しかった。
リップクリームとか、眉を足す道具とか、眉を切る道具とか、眉を剃る道具とか、眉を抜く道具とかそういったもの……眉にお悩みが多いですね。ええ。
そんなふうに細々と不揃いな道具というのはどうしまっても散らかってるように見えてちょっとテンションが下がるものだ。
猫缶に入れたら嬉しいに決まっている。
猫のところがぽこっと型で押して浮き上がっているので、机の上においといて寂しくなるとなんとなく指で探る。
春めいてきてから、2000年の夏になくなった虎猫のことをよく思い出す。
卵パックのぴろぴろが好きでパックを開けると必ずどこからでも走って貰いに来ていた虎猫。
それから鰹節も好きで、味噌汁の出汁を取とうとするとやはりトコトコと駆けつけた虎猫。
妹分であった黒猫も、わけもわからず一緒についてきて「私にもください」と二匹並んで待ったものだが、彼女は兄猫の真似をしていただけで、卵のぴろぴろにも鰹節にもそれほど興味がなかったことが今となっては判明した。
誰にも邪魔されずに一人で静かに卵のパックを開け、一人で静かに味噌汁を作っていると、ふいに寂しくなるのは、春が死と再生の季節だからだろう。
あの子がどんな姿であっても形を変えてうちに帰ってくる気がして、いつの間にか猫缶を指で探りながら待っている。
猫また猫。猫また猫猫、猫の缶。