マツコの知らない世界の「昭和歌謡の世界」が面白かったのです。
世代的に懐かしい、というのもずいぶんありますが、大変興味深かったのが『勝手にしやがれ』が『プレイバック part2』のアンサーソングだという分析でした。
放送上では一応「諸説あり」と注釈をつけておりましたが、たしかに並べてみると当時もっともヒットしていた曲の歌詞をしっかり取り込んでいるということは当然聞く人はあの歌を連想するだろうと思って書いてるのは間違いないので、まあ、アンサーソングというか、本歌取りではありますね。
こんなところに王朝文化の流れが。
そう思って両方の歌詞を聴き比べると男のほうは、喧嘩に耐えられなくなると狸寝入りを決め込んで、やけ酒のんで朝までふざけるような現実逃避型ダメンズ(本当にあんたたちって人の話聴かないためならどんな手段でも取るよな)
そんな男と付き合う女が「悪いことばかりじゃないと思いでかきあつめ」て「ふらふら」行くような質の女でたまるか、っていうのが作詞家阿木燿子の考察だとすると、それは大変偉大なお説だと思いますよね。
「坊や今まで何を教わってきたの」と言ってるそばから「私やっぱり帰るわね」と続くので、この二人はどこかの世界線でまだ痴話喧嘩やってるのでありましょう。
別れ際に景気が良い歌として最近私が感服したのが百人一首の右近サンの「お前なんかバチ当たってしんじまえ」というやつです。
忘らるる 身をば思はず 誓ひてし 人の命の 惜しくもあるかな 右近
rokusuke7korobi.hatenablog.com
転んでもタダでは別れない感じがたいへん味わい深い歌だなあと思ったのですが、そうなってくると「どういう人がこんな歌をもらったんだろうか」というのも気になってくる。
うまくしたもので、定家はもらった男の歌もちゃんと採録してくれているのです。
逢ひ見ての 後の心に くらぶれば 昔はものを 思はざりけり 敦忠
なんとなく現代人にも比較的分かりやすくていい歌だと思ってきたもんですが、右近の相手の一人だったということを念頭に置いたうえで改めてじっとり読むと
「ヤッてみたら思ってたりよかった」
みたいな歌を本人に届けるあたり、恐るべきプレイボーイメンタリティ。たしかにこれは呪われるタイプだよな、としみじみ思うことです。おまえなあ。
個性の際立った仲良しカップルは別れ際に「割れ鍋に綴じ蓋」感が最も発揮されて面白いのではないか、というのが平安と昭和のラブソングを読み比べた感慨でありました。