バレンタインデーだというので、最近は各種SNSで簡単チョコレートレシピみたいなものを大量に見かける。別段興味もない、と思っていても、本当に簡単でちょっと美味しそうだったりすると気になってはくるもので、
「この生クリームとチョコレートだけでできるムース作ってみようか」
などと思い立ったのはほんの出来心。本当にすぐできて美味しいならば、覚えておけば便利な折もあるのではないか、などという気になったのだ。
試しに生クリームと板チョコを買ったまでは良かったのだけど、びっくりしたのはチョコの箱を開けたときだ。
薄い軽い小さいの三拍子。今さらながら表記を見れば、わずか50グラムである。てっきり板チョコって一枚100グラムくらいあるもんだと思っていた。私の記憶が古すぎるのか、昨今の物価高の煽りか。
それでも買ってしまった手前、涙ぐましい思いで一応ムースにはしてみたが、材料が二つしかないのにそのバランスを著しく欠いた状態ではあるわけで、まずいとまでは言わずとも、当然そんなに積極的に食べたくなるような味にもならなかった。
しみじみ、誰かに食べさせるためのものでなくて助かったと、孤独とムースを噛みしめるバレンタインデー。
そんな日には、最近毎日一首ずつ読んでいる百人一首までも煮詰めたような失恋の歌にたまたま当たる。
忘らるる身をば思はず 誓ひてし 人の命の惜しくもあるかな 右近
さーっと読むと、着ては貰えぬセーターを涙堪えて編むようなありがちな失恋の歌に思えたものが、致命的に配合の狂ったチョコレートムースとともに眺めているとほろ苦くも胸焼け気味に味わい深い。
これってば「私を捨てたからにはバチ当たって死んじゃうだろうね、ざまあみろ」と書いてあるではあるまいか。
裏切られてなお相手の身を案じる女心として読めばどうでもいいが、要は「しんじまえ」というメッセージをわざわざ推敲に推敲を重ねて31文字にととのえて出してくる女性だと思えば俄然興味深い人であるし、受け取る側もその皮肉が通じる相手だったのだろうと思えばなかなかの好敵手、そして抜群の信頼関係である。
そういう相手とはたぶん恋愛をしてるより失恋をしている方が面白いだろう。
どうしたって恋愛は片思いか失恋が一番おもしろいし、チョコレートムースは失敗するくらいの方が話のネタになる。
つまり私にとってはそういうことではないのか、2月14日。
今週のお題「ほろ苦い思い出」