百人一首をつらつらと見ていて「現代語訳を読めば一応意味は分かるけど、だからなんなんだ」の筆頭だと思っていたうちのひとつ。
調べてみればこの小式部内侍という人は天才歌人・和泉式部の娘で、この時15歳位。母娘で中宮彰子に仕えておったとさ。
当時母・和泉式部が夫と一緒に丹後に転勤してたので、母の代理で歌合に出席することになった。そこに藤原定頼という貴族が遊びにきて
「小式部ちゃん、大丈夫?ちゃんと丹後に使いを出してお母さんに歌の代作頼んだの?」とかからかう。そこで小式部が立ち去ろうとする定頼を「ひきとどめて」詠んだ歌となっています。
意味のあるのは「まだふみも見ず」だけで、あとは天橋立までの道のりの言い立て、即興で知識と技法をミッチミチに盛り込んでやったぜというエスプリドヤ歌。
要するに言いたいのは
「誰に向かって言ってんだ、ばーか」
ってことで、そう思うと急にわりと良い歌に思えてきます。若い女が年上の男から受ける扱いって平安時代からうんざりするほど変わらなくとも、へらへらと柳に受けなかった態度は立派ではあるまいか。
中宮彰子サロンといえば、いずれ放送中の大河ドラマ『光る君へ』の舞台ともなっていく場所でありますから、ひょっとしてこんなシーンも入ったら今っぽくていいね、などと鼻息荒くしたところで一転、また思わぬ考察を見つけてしまったりもします。
ひょっと する と この 事件 は、 必ずしも 事実 なのでは なく、 定頼 と 小 式部 の 仕組ん だ でっちあげ なの かも しれ ませ ん。 というのも 二人 は 恋人 同士 だっ た と 言わ れ て いる から です。 もし そう なら、 定頼 は 小 式部 の 引き立て 役 を 見事 に 演じ た こと になり ます。
吉海 直人. 読んで楽しむ百人一首 (角川学芸出版単行本) (Kindle の位置No.2226-2232). KADOKAWA / 角川学芸出版. Kindle 版.
公式行事である歌合の記録が一切ないのはおかしいので、この一幕自体がフィクションなんじゃないか、ということですね。もしかしたら恋人の定頼がプロデューサーになって話題の若手アイドル小式部を売り出したのかも。
そう言われてみれば話としてさすがにうまく出来すぎてるような気はする、と急にしゅんとなったりもするんですが、そうだとしてもやっぱりそこまで話題と才媛が引きも切らないサロンを長く維持したフィクサー道長の天才の方にも注意は行くわけで、いかにもありそうな男女のワンシーンを虚構の形であれ掬い上げられるくらい闊達な雰囲気が醸成されていたこともたいそう面白い時代、と思うのでした。
(そんなわけでドラマとして面白いのかどうかはよくわからなくなってきたけど『光る君へ』にも本当に期待している)
七光りと言われちゃうのも仕方ないくらい和泉式部マジで天才。