晴天の霹靂

びっくりしました

『源氏物語』 ~燦然と輝くニューヒロイン登場

久しぶりに源氏物語に、まんまとハマっているのです。

元々わりと好きな自覚はあったのだけど、何年もほぼ読んでなかったので自分でも「もうあんまり興味ないんだな」くらいに思っていたものですが、なんのことはない読み始めると相変わらず好きなのでした。

 

元来「作者があんなに生き生きと描いたブスや年増を軽々しく扱う解釈は許しがたい」とは思っていたもんですが、今読み返すとすごい大事なヒロインを読み飛ばしていたことに気づかされます。

源氏が19歳頃に関係を持つ御年57,8歳であろうという物語きっての大年増、源典侍(げんのないしのすけ)です。

おばあさんなのにいつまでも色気づいているのでちょっとからかってみたらしつこくて辟易させれる、というようなエピソードなので、コメディリリーフなのかなと読み飛ばしていました。

ところが自分自身、腫れ物扱いされる「年増で独り身で働いてる女」となってからじっくり読むと、この典侍のあっぱれな身のこなしがよく目につくこと。

あさきゆめみし 2巻

源氏物語の女はだいたい「客体として生きるべし」という倫理観の中で「どう見られるべきか」で懊悩しながらバタバタとひどい目にあっています。

いじめ殺されたり、ストレスで突然死したり、生霊になって我を忘れたり、病気になったり、出家したがったり、ろくな目に合わない女人ホラー小説ですが、その中で唯一人、ババアと見られようが、色狂いと見られようが、「せっかく当代きってのイケメン貴公子なんだからいっちょイッとくか」というガッツを出す人。見られることよりも、主体として「どう見るか」の方を選んで生きるという燦然と輝く革命的な女性です。

 

若くてイケメンで地位も名誉もあって調子こいてるボンボンとねんごろになったところで「面倒なばかりで全然おもしろくないんじゃないかなあ」と私などは思ってしまうのでありますが、「今一番流行ってるイケメンだからイっといたほうがいい!(そしてクソボンボンのほうでこっちをどう思ってるかとか知らねーし!)」と思えるなら、そのほうがだいぶ人として魅力的な感じがします。

そもそもこれは男女をひっくり返せばありふれたトロフィーワイフ的な話であり、源氏物語の中でもたくさんあるエピソードなのですが、女性で自然にそのふるまいを身に着けているのは、還暦近くまで宮中で働く優秀なキャリアウーマンならではにも思えます。

 

ちなみに源典侍のことをばあさん呼ばわりして内心笑いものにする源氏ですが、自分自身はどうかといえば、ブスで貧乏で身分も低い花散里に対して「癒やされるわあ」とばかりになんだかんだ上から目線の言い訳しながら一生面倒見るし、反対に身分も教養も容姿も申し分ない愛人だった六条御息所に対してはやたら気後れして生霊を見るまでにビビりまくる始末で、どうもそのへんのコンプレックスの置きどころは全般にセコい気がします。

源氏は馬鹿にするけども、素直に「うわ、イケメンだ。念のためイッとけ」となる源典侍のほうがどう考えも人格者だろ。

 

 

 

吉永小百合様が紫式部の役で出演。東映50周年記念ということで主演に小百合様を使わぬわけにいかないが、いくらなんでも紫の上にするのは無理があろうということでこうなったのだろうなあ、と思いながら見ると味わい深い。突然松田聖子が出てきて歌って踊ったりして全般的にどうかしている。ちなみに源典侍岸田今日子で、完全なコメディリリーフ(そっちを吉永小百合で見たかった)。

 

 

源氏物語

源氏物語

  • 花ノ本寿
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浅丘ルリ子が可愛いのに結構ビビった。正確な時代考証はわからないながらも調度も衣装もしかるべく生活感があって物語的なリアリティという意味では新しい作品よりずっと見やすいなあと思う。あとこのくらいの時代の役者さんってアップにするとちゃんと肌が荒れてたりするのがいい。いつの頃からか、役者さんで肌の荒れた人って見かけないですね。源典侍は登場せず。

 

 

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