晴天の霹靂

びっくりしました

立冬なれば、出来心でいい香りの保湿オイルを買う

今年は暑い暑いばかり言って過ごしてきたものだが、気がつけば立冬

落葉松の林を歩いていると、澄んできた空気の中に松の葉のひんやりする香りが充満して素晴らしく居心地がいい。すっかり枯れ葉色に包まれたそこここでは、夢中で胡桃を拾うエゾリスが走り回っており、こちらは都度立ち止まってふさふさした尻尾が木々の間に消えていくまで忙しそうな冬支度を見守る。今年はどんぐりの不作で熊が道に迷っているというが、君たちはみな無事で過ごしているのか。

 

夏の間は化粧水と日焼けどめさえあればだいたいなんでも賄えていたものを、気温がさがるにつれて、リップクリームをひとつ追加し、ヘアオイルをひとつ追加し、と保湿の季節である。ハンドクリームの携帯用のもひとつ買っておくか、と立ち寄ったコスメ売り場では、「普段家では使わないけど香りが良さそうなハンドクリーム」のテスターを試しに使ってみて、つかの間いい香りを楽しむのが好きだ。実際は、いい香りの手で皿を洗ったり猫を撫でたりぬか床を混ぜたりするのも居心地悪いので買って帰るほどはいらないのだけど、寒くなるといい香りのするものが恋しくなる。

 

ラベンダーもいいよねぇ。ネロリの香り好き。ローズはいいやつはすごく好き。などとしばらくウロウロしていて、どうしたことか魔がさしてハンドクリームではなくてオイルを買う。ポッケに入れておいて寒風吹いてきたらすぐ使えるような小さくて安価なハンドクリームを探していたのに、どういう風の吹き回しで保湿オイルを買ってしまったのか、我ながらよく思い出せないが、まあ同じ油分なのだから良いだろう。

 

いかにもドイツ製らしい質実剛健で汎用性の高そうな小瓶に入っているのはローズヒップオイルだ。ローズヒップハーブティーではやった頃に真っ赤な色と主張の強い酸味にわけもなく感激してよく飲んでいたのだけど、その後北海道のあちこちで自生しているあの「ハマナス」だと気づいてから、私の中でだいぶローズヒップとの付き合いがフランクになった。たしかに、ハマナスは花もかわいいし、花盛りの季節に通りすがると風にのって素晴らしい香りがするのだ。しかし、まあ。あちこちで煤けて地面に座り込むように低く自生しているあのハマナスが、お洒落ローズヒップだったとは。ヨーダジェダイだった時くらいの驚きではないか。

思い出と乾燥と浮かれた気分に負けて結局、ぬか床かき混ぜるのははばかられるようないい香りのオイルを買ってしまったけど、なんとなくごまかしごまかし使っているうちに、今年の冬もやり過ごせていくんだろう。

 

 

「そのKはどう考えても読まないだろう」と見るたびに動揺させられるのでおなじみのクナイプ。ちょっといい香りだけど、いい香り過ぎないところが、なんとなく絶妙でよろしいようです。冬は髪の毛先とかにつけるとたぶん何かの拍子にふっと幸せを感じられるタイプのやつ。別に斬新な工夫などはされていない瓶なので、ポッケに入れて持ち歩いたら漏れることでありましょう。