晴天の霹靂

びっくりしました

ワセリンと子犬と『気狂いピエロ』

ゴダールの『気狂いピエロ』を見ていると超可愛いアンナ・カリーナがずっと小さい犬のぬいぐるみを持っているのがだんだん気になってきます。

大事なぬいぐるみのわりには雑に尻尾を持って振り回すし、ずっと映ってるのに誰も言及しないし、一体あれは意味があるのかないのか、と戸惑い始めたあたりで、やおらその犬からリップクリームを取り出して塗るという場面があります。

「ぬいぐるみじゃなかったんかーい」

という衝撃とともに

「そうそう、かわいい女の子っていっつもリップ持ってるように見えるよね」

という、どの立場なのかよくわからない納得を覚えたのが印象的でした。 

ジャン・ペール・ベルモンドが振り回すアンナ・カリーナが振り回す犬

 

乾燥の季節が終わったなあ、と思っておおらかに構えていた昨今、人生始めての事象に遭遇するようになりました。

ちょっと口紅など塗って長めに喋ったりすると、口の内側と口角あたりがいつの間にか白っぽくなっているのです。

こんなこと起こったことないぞ、と思ってなんだかわからなかったもんですが、しかしどう考えてもテレポーテーションで突然湧いてきた砂金などではないわけで、ありうるのはただ自分の唇の皮。

冬の間こそ、ワセリンを塗って保湿はしていたんですが、気温が上がってそんなことすっかり脳裏から消し飛んだ瞬間にどこからともなく白い皮は湧いてきたのでした。

 

つまらない男と川を渡るときも犬を振り回す

近年は口紅は「長時間落ちない」の方に進化を遂げているので、トレードオフで成分的には乾燥しやすくなってきているのだろうな、と思う一方、たぶん若者向けにはこういう設計の口紅で十分用をなしているのであろうことを考えると、なかなかにこちらの水気も抜けているのを実感するところでもあります。

なるほど唇の保湿というのは、通年すべきことになっていたのであったか。

 

「子犬のリップクリームケースを振り回しながらあんまり面白みのないオタク青年と逃避行するのもちょっと楽しそうではあったな」

などとさほど脈絡もない感慨に耽りながら、洗面台に無骨なワセリンのジャーを置くことよ。

なんでもいいからとにかく保湿さえすればいいならワセリン最強です。

 

 

 

 

突然犬からリップクリームが出てきた時点で「別に意味とか考える映画じゃないな」と思って楽しくなる。


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