『裸のランチ』4Kリマスターを観てきたよ。めちゃめちゃおもしろい映画でありました。
ここ2ヶ月くらいで『ビデオドローム』の4Kリマスターと、新作の『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』と立て続けにクローネンバーグを観た結果、ご多分に漏れずすっかり癖になりまして。
上映回数少ないとはいえ『裸のランチ』が公開中と聞いて取る物もとりあえず駆けつけた次第です。
クローネンバーグといえば「セックスに変わる男女間の親密なコミュニケーションを模索するおもしろシーン」が非常に強く印象に残るのですが、『裸のランチ』も超すごい。
カップルで幻覚剤を接種しながらアラビア語のタイプライターを一緒に打つと快感が得られる、というシーンが、まあ絶妙なバカバカしさでした。
アラビア語のタイプライターを手に入れると興奮するのはなんとなく想像つくんです。文字はくねくね丸っこくて可愛いから見てるだけで気分よくなるし、英字のタイプライターに慣れてたら右から左に文字が移動していくのは斬新な感覚だろうし、やたら触っていたくなるところまではわかるのですが、訳の分からない文章をつぶやきながら二人羽織でタイプライターを適当に打ちつつ、恍惚状態になっていくさまを観ていると「……何だ君たち、おもろカップルなのか!」ってなりますね。
薬物中毒であること自体は孤独で辛そうだけど、要所要所楽しそうでよかった。
観てるとしばしば「寂しい人だなあ」と思ってつらくなるところもあるんですが、それでもギリギリのところではちゃんと戻ってこれるよう迎えに来る友達がいたり、一方でこの原稿は仕上げた方がいいから完成させてこいと勇気づけて送り出してくれたり、内的冒険に付き合ってくれる適度に軽薄な女性も居たり、人に恵まれた人生でもあるので見ていてとても楽しかったです。
ダンディなピーター・ウエラーとめっちゃかわいいマグワンプ君のツーショットの魅力については今さら言うまでもあるまい。どのカットも全部かっこいい。一緒に飲みたい。
ところでこの映画、狸小路の端っこのミニシアターで見てきたのです。
狸小路といえば、私が子供の頃から何十年もずっと寂れた果てたシャッター街だったのですが、市電が循環式になってアクセスがよくなったことと、コロナ明けインバウンドが復活したことの両方を追い風に、突如目を瞠るほどの勢いで賑わってきています。
そうはいっても明治からの歴史のあるアーケード街。大手チェーン店が出張ってくるような感じの店構えの建物はもとよりなく、なんとなく小さくて猥雑な、そして国籍豊かな飲食店などがひしめきあって、奇跡的にブレードランナー風ストリートが完成してしまっているのです。
本当に、映画撮影隊の誘致なんかやったら、この雰囲気のアジアを使いたい人はたくさんいるんじゃないかなあ、というようなノスタルジック近未来。
そんな狸小路の端っこで、ちょっと小腹が空いたので軽食を買って食べながら創成川の風に吹かれてぼんやりしてたら、道路の向こうに外国語のネオン看板が目に入りました。
「『ちんたまおんなのちゃ』かあ」なんてぼーっと見てるうちにだんだんその茶店がインターゾーンへの入り口に思えてきて、変な気分になってくる。
あの店に入って行けばマグワンプ君がいてエージェントにスカウトしてくれるんじゃないかしら。
見慣れない青い光に吸い込まれていきたいような、このまま帰ったほうがいいような。
夏の終わりの夜の狸小路で『裸のランチ』を見るというのは二重にも三重にも、たまらない異界経験でありました。
(珍珠奶茶は「ちんたまおんなのちゃ」ではなくて「ヂェンヂューナイチャ」と読んで、タピオカミルクティという意味らしいです)
電子版が出ていないので紙の本で持っていたはずなのだけど、人に貸したと見えて出てこない。しかし、そもそもこれが電子書籍で出てないことがおかしかないか。