Amazonビデオのラインナップを見て、最初は目を疑ったものです。
全然知らなかった。アキ・カウリスマキの長編デビュー作が『罪と罰』だったなんて。
誰が言ってるのか知らないけれど「フィンランドの小津」ことアキ・カウリスマキと、話しが長くて感情の起伏がおかしい人物ばっかり長々と書きたがるドストエフスキーは「どうやっても食い合わせようがないだろう」
という疑念しか浮かばない。
見るしかない。
これが大変おかしいことに、最初のワンショットを見た瞬間から
と思って、あまりに違和感のなさに大笑いでありました。
ドストエフスキーの人物たちを、無口にすると結構カウリスマキになるというのはすごい発明ではあるまいか。
言われてみれば、基本的にしょぼくれてるし、いっぽうでわりと中学生みたいな恋愛をしがちだし、実は結構似ている。
ドストエフスキーの『罪と罰』と言えばいちばん妙ちきりんで印象に残るのは終盤近く。
人殺しをしておいてなんとなく雑に反省したっぽいラスコーリニコフがいきなり往来に走り出て「私は人を殺しました」とか叫びながら地面に接吻するというシーンがあって、読者を混乱の渦に投げ込むのです。さすがにそんな人いないだろ。
一応その筋の人の解説によれば、ロシアには大地に対する信仰が根強くあるのでロシア人気質としてギリ説明はつくということになるようですが、そう言われてもそんなに釈然とはしない。
「そういういかにもドストエフスキーっぽい大仰なシーンを、アキ・カウリスマキ的にはどう扱うのか?」
というところが非常に興味津々だったんですが、答えは別にどうともしていなかったですね。
なんか反省したフリしていつまでも芯を食った反省はしないうえに、ギリギリで魂を救ってくれた女性に対してもいつまでもわけわかんない理屈をこねて偉そうなラスコーリニコフに対して「うわ、引くわー」みたいな女性の顔のアップ。
そうか、あのシーンは別に大地に接吻とかしなくても「うわ、引くわー」の顔が撮れればそれで通じる場面だったのか。と新たなる発見をしました。
『罪と罰』とカウリスマキのどっちにも興味ない人には厳しいかもしれないけど、どっちかが好きな人にはかなり興味深い珍品のような気がいたしました。100円だし。
しかも上映時間1時間32分。あの分厚い文庫で上下巻分冊のストーリーを90分にする手腕が素晴らしい。