晴天の霹靂

びっくりしました

『言葉の獣』~近頃私も季節感が猫の姿に見えるようになりまして

 

最近読んだおもしろい漫画。

「言葉が獣の姿で目に見える」という共感覚を持つ女子高生の話です。

「そんな共感覚設定、よく思いついたなー」と思ってみたりもしたもんですが、最近私もいよいよ季節感が猫の姿で目に見えるようになってきたこともあり、高校生ともあればもっと多様性のある獣の姿で見えても不思議じゃないような気もしてきた。

 

冒頭から非常にぐっとくるのが、国語の授業で『山月記』を扱ってるシーンから始まるのです。

山月記』って高校生ぐらいが読むにはやたらハマりやすい壮麗な美文なので、私も教科書で読みつつ興奮したもんですが

「そうは言っても勉強しすぎたくらいで人は虎にはなんないですよね?」

ということも一方では思ってはいたわけです。

授業では「どうやったらもっと面白く読めるか」みたいな遊びはなされなかったので、書いてあること以上は誰も踏み込まなかったのですね。

 

それがだいぶ大人になってから岩波文庫で読み返して

「めっちゃBL小説だったー!」

ということに気付いたら、例の「人は虎にはなんないですよね」のツンとした虎さんが、猛烈に生き生きした若者の欲望の姿として躍り出てきまして、小説よんでて超楽しいと思った瞬間のひとつとなりました。

自分の欲望が恥ずかしくてヤブに隠れて生きていくなんて、本当に胸の痛い話ですよ。

 

話は漫画『言葉の獣』に戻ります。

この本では主人公の一人である薬研さんという高校生が『山月記』の授業で、誰も真剣に言葉を取り扱おうとしないことや、詩を「中二病的」と言って馬鹿にする風潮に、恥ずかしさやら違和感やら色々ためている間に虎になるのです。

なるほど、山月記にはこういうタイプの虎さんも、ありえたのでしたか。

 

他にも「がんばれ」という言葉が、ある人にとっては迷惑気味にやたら抱きしめてくるしろくまさんである一方、別の人にとっては距離を詰めさせない臆病なうさぎだったり。

なんとなく心に引っかかっていた言葉に対して今までしたことがないタイプのアプローチが取れる漫画として、非常に面白いです。

あとSNSとの距離のとり方の話なんかも非常に興味深いですね。

セキュリティ的にあれとコレがだめ、とか、写真と個人情報の掲載は気をつけろ、とかいうノウハウ話は巷に多く出回るようになってますが、自分の言葉への感受性を守るためにどういう立ち位置を取るのが一番心地よいかという突っ込んだ議論は、この漫画で初めてみた論点であるような気もします。

 

おもしろい。

 

「言葉の美しさ」というものさしを持つ人がもっと増えるとインターネットももうちょっとのんびりした密林になれるのかもしらんですね。