自分がグレイヘアにしてから圧倒的に街ゆくグレイヘアが目につくようになってくる。
みんな生え方にそれぞれ個性があるから、意識して見てると楽しい。
信号待ちをしているとほぼ真っ白なおかっぱにしているマダムが向こうに立っている。
「いやあ、綺麗だねえ。私があそこまでなるにはまだ何十年かかかるねえ」
と、目をとめる。
そして、なんとなくの、違和感に気づく。
立ち姿が……歌いはじめの石川さゆり?
見事な銀髪で、近所のイオンにいくようなペラペラのシャツとズボンでマイバッグ持って、さゆり立ちで信号が青になるのを待つマダム。
一個一個は素敵なのになぜ全部合わせるとそんなにバラバラなのかっ。
経験値が増えるとそのぶんだけ各パーツの情報量も増え、なにかの拍子に組み合わせの妙でやけにほがらかになることもあるってものなのだ。
そんなほがらかグレイヘアに横断歩道のこちらから心のいいねボタンをそっと押したりするのである。
かくいう私はせっかくグレイヘア移行が終わっていい具合の色合いになっているのに、昨今は日差しが強くて外では帽子が手放せず、はからずも隠して出歩く格好になってるのがちょっと惜しい。
さて、脱・白髪染めを振り返る。
伸ばしてる期間は白黒境界線がカッパ状に広がっていく残念な見た目なので自他ともにそれなりに気になるが、完全に地毛への移行が完了してしまえば、ほぼ誰にも何も言われない。
近頃は「ハイライト入れた?」と聞かれることはあるので、勝手に生えてる白髪だと説明すると、「嘘でしょ、ハイライトでしょ」と信じて貰えなかったりしてちょっと愉快。
かくも45歳のグレイヘアは、女性ではまだわりと珍しいのだ。
その分、染めなくなって半年くらいの間が一番面倒な時期でもある。
根本がちょっとだけ白いときが一番目立つし、美容室へ行くのをサボってる人みたいに見えるので、指摘されることがある。
そういうときに、「白髪を伸ばそうと思っている」と言うとネガティブな反応を示すのは面白いことに男性だ。
「あなたには何の迷惑もかからないと思われるのが、なぜ私が白髪だと嫌なのか」という旨の質問をすると
「久しぶりに実家に帰ったときに母親が白髪染めを辞めており、急に老婆みたいになっていてショックだったから」などという人生の悲哀に満ちた頓珍漢な答えが帰ってくるのも興味深い。
貴殿の母親が白髪だろうが黒染めだろうが、中年にとって久しぶりに帰る実家が恐ろしい場所なのは普遍的な法則なのだから、その責任を他人である私の毛髪が取る必要はない。自分がこまめに帰省したまえ。
そんな最初の半年間は「老けるよ」という投げっぱなしジャーマンもいただくのであるが、語義的に考えて見た目と実年齢の間で辻褄が合うことを「老ける」とは言わない気がするし、ちゃんと白髪が伸び揃ってくると、これは全く言われなくなる。
実際のところ、髪色が明るくなってツヤも戻るので、見た目の印象は明るくなる要素しかないようで、一体なんだったのか。
どうも白髪はいいことしかない気がしている今日このごろ。総じてありがたいことである。
近頃気に入っているのがジェル。バランス見ながら顔のまわりに筋状に白髪を見せられるし、ベタつかないし、お湯だけで洗えるし、帽子でくずれたら適当に水で濡らして手ぐしで直せるし、安いし、ツヤ出るし。これはもう中年グレイヘア向けに存在するスタイリング剤なのではあるまいかと思い始めている。
移行期に美容室をどうするか問題も悩ましいところ。知らない美容室に入ってまた染められてしまって困るのでセルフカットするようになったのだけど、これも年齢と外見をチューニングする良い経験になった。っていうか楽なので当分続けたい。眉用ハサミは失敗しにくいし、切れ味よくておすすめ。