晴天の霹靂

びっくりしました

MIB街頭演説 ~あなたたち怖いんですけど

あまりスケジュールを公表していない候補者の街頭演説の予定がわかったので、聞きに行ってきた。

少し早くついて様子をうかがっていたら、何事かと思うくらいの数の「ダークスーツ着用片耳イヤホンマッチョマン」がずらり並んでいる。

「あなたたちものすごく怖いんですけど、そんなところに並んで立ってたら集団的威圧行為とかなんとか、そういう類のものにならないんですか」

と思いつつも車道を渡って向かい側の歩道までスタコラ逃げる。

北海道は2019年参院選の街頭演説で、ヤジを飛ばしただけで道警に取り囲まれて実力排除された人が実際何人もいたので、こういう場所で威圧されるとわりと本当に嫌なのだ。

 

警備の数もすごいし、スタッフの数もすごいし、選挙カーもでかくてすごい。

それにしてもこの凶々しさは何事か、と思ったら大臣の応援演説が入っていたのだった。

あ、そうだったそうだった、SNSの告知にそう書いてあった。

ようやく思い出すに至ったのは、今はどの大臣も印象が薄いせいだ。

だってみんなまだほとんど何の仕事もしてないんだから仕方ないじゃないの。

 

やがて、予定時間ほぼぴったり、人生で見たこともないほど黒光りする大きな車が二台すーっと滑るようにやってきて選挙カーの真後ろにびたっと止まった。

何その異様にかっこいい運転技術。どういう訓練受ければそんな一ミリ違わず狙った地面に吸い付くみたいな運転できるの?

目を見張っていたら、中から何らかの大臣が出てきた。

たぶん名乗りはしていたのだろうけど、マイク音量が交通量のわりに小さいので結局誰だかよくわからない。

 

誰だっけ?と思って顔を見やすい位置まで移動するとメン・イン・ブラックがなんとなくついてきて、両サイドを挟まれる格好になる。

「連行される宇宙人」ほどぴったり張り付かれてるわけではないが、見張られてるってのも不穏なものだ。

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私怪しく見えます?

別に、スマホと財布と手帳とカマンベールチーズしか持ってないですよ。

むしろカマンベールをなぜ持ってるのかについては気になるでしょうけど、それは人事と個人情報にかかわることなんでお答えは差し控えさせていただきます。

誰だって場違いなもののひとつやふたつ絶対持ってるでしょうよ。

スマホと間違えてポケットにテレビのリモコン入ってたことくらいあるでしょう?

 

目をつけられても仕方ないくらい貧相な身なりの私が立ち止まって聞いていることが呼び水になったのか、隣に初老の男性がひとり立ち止まって演説を聞き始めた。

選挙スタッフと警備の数が多すぎるのでどこからどこまでが純粋な関係者なのかがわからないのだけど、私の見える範囲では身内ではなさそうな庶民派オーディエンスは、私とそのおじいさんだけだ。

やがて車道を渡って政策ビラを持った選挙スタッフが走ってくる。

「よろしくおねがいしまーす」

という声も若々しく爽やかで、受け取りながらマスク越しの顔を見ると、二度見するくらいかわいい女性だった。

隣のおじいさんもはりきって

「あんな野合なんかしてるやつらに負けるんじゃないぞ。共産党なんかに絶対負けるな」

てなことをでっかい声で言ってる。

「ありがとうございます、がんばりまーす」

と言って、彼女たちは軽やかにかけ去っていく。

大学生くらいに見える彼女たちは、ある種の共産党アレルギーを共有できる世代でもないと思うのだが、この会話はどれくらいかみ合っているのだろうか、と思うと隣で聞いててちょっと面白い。

 

大臣の話はあまり聞こえなかったが、候補者の声は慣れた機材のせいかさすがによく聞こえる。

自分は実績があるので責任持ってしっかり仕事ができる、というようなことを力説している。

たしかに、今回この選挙区で国政に居た経験がある候補者はひとりだから、そこがアピールポイントだろう。

時々通り過ぎざまに軽くクラクションを鳴らす車がいると、そちらに向かって頭を下げて手を振りながら演説を続けている。

 

おそらく応援演説と、本人の演説、各々15分程度だったのではないか。

共産党嫌いのおじいさんは応援演説の途中でどこかへ行ってしまった。

私は大臣カーの見事な運転技術をもう一回見たくて、話が終わったあともしばらく立っていた。

ため息ほどの音もたてず闇に溶けるように、二台のギラギラ黒光り高級車は視界から消えた。

候補者は選挙カーの屋根から降りて、車のすぐ下に横一列に並んでいる小綺麗な紳士2,3人と握手をしている。後援会の人だろうか。

そして選挙カーに乗り込んで、スピーカーで名前を連呼しながら走っていく。

あとは残されたメン・イン・ブラックたちがゆっくり撤収している。

 

高いところから話す人だったな。

ひと目につくところには若くてかわいい女の子を配置するような価値観の人だった。

立派な服装の人と組織に守られたり応援されたりしている人だった。

選挙には「イデオロギー」ってのも、「政策」ってのもあるけれど、「価値観」っていうのもある。

なんか怖かったし、「私の一票なんかではどうせ変わらない政治」みたいなものを連想させる威圧感もあった。

トボトボ歩いていたら急に手遅れの元気が出てくる。

だいたい私、有権者だし、あそこ公道だしっ。

ちょっとみすぼらしいくらいの理由でむやみに警戒されすぎだろ!

誰が宇宙人だっ!(そんなこと言われてない)