晴天の霹靂

びっくりしました

地獄の淵からこんにちは ~きっと勝負の選挙週末

短い選挙戦の週末がやってきた、というので、どの候補者もきっと勝負の土日なのであろうが、雨である。

SNSを見てもなかなか活動内容が見えてこないと思っていた目立たない候補者が「党首が応援に来ます!」というので、珍しく応援演説の場所と時間を前日の夜から告知していた。

事前告知の少ない候補者だから、この機会を逃したらもう話を聞けないのではないか、とは思ったのだけど、時間も場所もちょっと微妙なところで悩ましい。

急坂をママチャリ立ち漕ぎしていけばそんなに遠い距離とはいえないが、もうそろそろ寒いんだよなあ。

などと悩んでいたら、明けて朝から雨が降ったのでなし崩しにあきらめてしまった。

 

しかし、なんだね、候補者というのは案外自分の活動を隠すのだろうか。

同じくまだ話が聞けていない与党系の候補者のSNSでも「ゲリラなので私もどこでやるのかわかりません!」なんて喜々として書いているのが不思議だ。

「予定を調べてでも聞きに行く人」には聞かれたくない話をしてるってことなんだろうか。

 

夕方、雨が上がった隙に外出した。

空に大きな虹が二重にかかっていて、なかなかいい気分だなあ、などとと思っていたら、あっという間にまた降り始め、見事にずぶ濡れる。

雨に濡れて歩くことは全然嫌いではないのだが、年を取るにつれてずぶ濡れると地獄の淵から這い上がってきたみたいな風体に見えることもあり、最近は公衆を慮って極力ずぶ濡れないように心がけてる。

「やれやれ、さっさと帰ろう」

と思っていたら、いきなり目の前で、今朝応援演説を聞きに行きそびれた当の候補者がしゃべっていた。

「おお、こんなポケモンみたいに不意打ち登場するものなのか」

とびっくりする。

 

パン屋さんの軒先に雨宿りをしつつ足を止めて耳を傾ける。

どうやら演説はもう締めるところだったようだ。

私が足を止めたのに気付いて数分引き延ばしたような様子は見てとれるが、それでもあまり様子がわからないうちに話は終わってしまった。

相変わらず、オーディエンスは私一人だったので、話し終わったとたん候補者の人はダッシュで向かってきてくれて、名刺をくれた。

同族のよしみで忌憚のないところを言わせてもらえば、その候補者もずぶぬれると地獄の淵から這いあがってきた感が出るタイプの人で、しかも雨で眼鏡が曇ってるのでいよいよ大変そうに見える。

 

「今朝のショッピングモールの応援演説聞きに行きたかったのだけど行けなかったんです。演説会の予定とか、どこを見ればわかりますか」

こちとら気が小さいが、相手がずいぶんやつれて見えたのが幸いして、全然気おくれなしに声をかけていた。

「すいません。できるだけツイッターで告知しようと思ってるんですけど。予定は事務所に電話してもらえれば。」

と、手渡されたばかりの名刺に刷ってある事務所のところを指で示した。

なるほど、大きな政党に比べると人手が足りてないんだろう。

ほかの候補者は、事務所のスタッフが投稿していたりするものだが、当選経験がないというのもなかなかシビアなのかもしれない。

「わかりました、頑張ってください」

 

選挙カーに駆け戻っていく候補者と離れて帰る道々思った。

一度も当選したことのない人なので「議員への陳情」とは言わないが、今のは私がはじめて地元候補者に伝えた有権者の声だったんじゃないか。

あと、こっちはパン屋の軒先で立っていたが、相手はもっと長い時間屋根のないところでしゃべっていたんだから、「寒いので風邪ひかないでください」くらいは言っていいところだった。

選挙に立候補してる人もこちらと同じ生身の人間なのであることに、今まであんまり思い至ったことがなかったのだな、と反省もする。

 

帰宅してからもらった名刺をよく見てみると、プロフィールの一番下に堂々「地区町内会班長」と刷っている。

政策資料のほうはいくら見てもピンとこなかったが、「町内会の班長を引き受けてくれる人」という点は信頼できる。