「まだ選挙の話してんのか」と思われそうな気もするけど、今しないとあっという間に終わっちゃうからしておこう。
初めて街頭演説に行ってきた。
近所のスーパー前で野党系候補が演説するっていう情報をSNSでキャッチしたので
「これは雰囲気だけでも見にいこう」
と思いたったのだ。
ちょっと早く着いてしまったと見え、一帯は何の変哲もない普段のスーパーである。
やむなく店に入って、りんごとちくわぶと玉こんにゃくとじゃがいもを買った。
そんなものばかり買うとレジの人に
「この人、きょうは『二日目のおでん』かしら」
と勘ぐられてるんじゃないかな、なんて気がする。
「残念でした、三日目です」
と目で訴えたりしてるうちに、ようやくまあまあ良い時間。
ほぼ定刻ぴったりくらいに、やけに派手な車が駐車場にはいってきたので、できるだけ遠巻きに店の出入り口あたりから見ていると、選挙カーから青いのぼりがたくさん出てきてぐるっと駐車場の周囲をまわって近づいてくるのが見える。
ものすごく合戦っぽい。
まあやっぱりこんなもんなのかな、と思ったのは、最初から最後まで通して話を聞いていたのは私一人だったことだ。
いくら遠巻きとはいえ、さすがに一人のオーディエンスってのは目立つわけで、候補者は私だけを見つめてしゃべるの構図。目のやり場に困る。
ふんふん、なるほど若者が希望を持てる社会ね。
いいと思いますよ、これっぽちの異論もない。
なんなら私にもちょっと希望くれてもいいですけどね、昔は若かったんで。
りんごとちくわぶと玉こんにゃくとじゃがいもを肩からぶら下げたままけっこう楽しく聞いていた。
生身の人間が、何によっても守られていない弱い状態で一生懸命しゃべってる姿は、それ自体がちょっとスポーツのように心に響くものだ。
20分ほどの話が終わった瞬間、マイクから手を離した候補者がダッシュで私のところにやってくる。
知らないおじさんが自分めがけてダッシュしてくるなんて、犯罪に巻き込まれる以外の場面で想定したことがなかったので、ちょっと感動した。
びっくりして逃げなくてよかった。
「話聞いてくれてありがとうございました」
かなんか言って平身低頭なので、こっちとしてもつられてぺこぺこしながら
「頑張ってください」
などとつまらぬことをいう。
本当はもうちょっと慣れればここで生活の不満とかをぶつけてみるのが政治の建設的な面白さってもんなのかもしれないが、まあ気が小さいうえに元来、政治家には縁がないもんで、これくらいで精いっぱい。
ちょっと古いタイプの政治家の評伝なんか読んでいると
「握った手の数しか票は出ない」
なんてことをよく書いてあるものだ。
そういうのを見るたびに
「福山雅治ってわけじゃあるまいし、知らない中高年おじさんと握手して喜ぶ人がそんなにたくさんいるとも思えないが」
などと思っていた。
今回は握手こそしてないが、自分のほうに向かって候補者が走ってくるのを目にして、それにはちゃんと意味があるのを、不覚にも実感した。
見てるとわかる、これはやっぱり非常に大変なことだ。
寒空の中一時間おきに場末のスーパーの店先に街頭演説の予定を入れ、聞く人もいない虚空に向かって演説をし、なんなら「うるせえな」くらいの視線に晒され、支持者だか野次馬だか冷やかしだかわからない人のところに積極的に向かっていって頭を下げる。
当選すればまだしも、落選したらこの体力勝負は結局なんだかったのかもわからない徒労として消える。
ただ無駄にぺこぺこしただけだ。
なるほどこれは私には無理だ。
演説の内容こそ直接私の生活感に訴えかかけるものではなかったし、あなたに入れるかどうかもわかりませんが、立候補することで私の一票の選択肢を増やしてくれて、どうもありがとうございました、くらいの謙虚な気持ちには十分なった。
寒風吹きすさぶスーパー(品ぞろえはたいしてよくない)での演説も面白かったが、これがまた、告示翌日からスター政治家が連日じゃんじゃん応援に入っている与党公認候補ともなるとずいぶん雰囲気も違うのであろう。
かくなるうえは、そちらも時間さえ合えばぜひ見に行きたい。
それから、いくらSNSを検索しても、どこでどんな選挙活動をしてるのかいまひとつ事前に突き止められない謎の第三の候補者についても気になる。
そもそもが、平日の朝から晩まであちこちのスーパーの店先で演説の予定を組んでいるということは、平日スーパーにいる層に対して訴えかけているということだ。
一方、与党候補者が駅前の大手百貨店前で首相の応援を入れて合同演説会を組んでいるのは、街のオフィス街やら、高級百貨店などにいる層に聞いてもらいたいことがあるんだろう。
どこに行けば居るのかが事前によくわからない候補者は、主戦場がネットなのかもしれないし、あるいはコアな支持者に向かっての活動をしているのかもしれない。
地元の土地勘があればこそ、活動場所を調べるだけでも見えてくるものがあるのも興味深い。
「しかし、演説前にうっかりりんごとじゃがいもまで買い込んでしまったのは微妙すぎる判断であった」
などと思いながら、とぼとぼ帰宅。
北海道民にちくわぶを食べる文化はないが、どういうわけだかたいていの店にちゃんとおいているのが不思議で、時々買ってしまう。