晴天の霹靂

びっくりしました

『ゲーム・オブ・スローンズ シーズン1』~取られた人生、取り戻せっ

 

今更ながらの『ゲーム・オブ・スローンズ』を着々と見進めているGWです。

現時点でドラマが第1期の10話中の8話まで見終わったところで、小説は一冊目読み終わったあたり、ハマってるわりにはペースは全然早くない。

それというのも、あんまり世界観が緻密なので、熱中してしまうと他のことが考えられなくなって、実生活で必要な思考回路がスッカスカに枯渇する感があるので「冷却期間をおくように用心しながら見る」という奇行に及んでいるためなのです。

ゲーム・オブ・スローンズ』のフィクションの力が並外れているのか、はたまた私のマルチタスク機能が並外れてポンコツなのか。

おそらく両方でありましょう。

 

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とりあえずシーズン1の八割を見た現時点で印象深いキャラクターの一人にティリオン・ラニスターという小人症の貴族がおります。

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ファンタジー世界とはいえ、戦国の世。

貴族と生まれたからには男は武装して肩でパターナリズムと暴力礼賛の風をきって歩かねばならぬ下剋上の世の中で、馬にも乗れない、剣も持てない低身長であることがどれだけ苦難の道か。

小さな身体で賢く立ち回って生き延びていてくれるだけで、このファンタジー世界をちょっと好きになる個性の強いキャラクターです。

 

どこへいっても誰からも、「インプ(小鬼)」と好奇の眼差しで見られ続けられる人生。

その小鬼が、悪意のあるあだ名で呼ばれて傷つく私生児に向かって言うセリフがいい。

 

「ぼく を〈 スノウ 閣下〉 と 呼ば ない で くれ よ」

その 小人 は 片方 の 眉 を 上げ た。

「 おまえ、 むしろ〈 小 鬼〉 と 呼ば れ たい か?   かれ ら の 言葉 で おまえ が 傷つく と 知ら れ て みろ、 死ぬ まで 嘲り つづけ て くれる だろ う よ。 かれ ら が おまえ に 名前 を 与え たい と 思う なら、 それ を 受け取れ ば よい。 それ を 自分 の 名前 に しろ。 そう すれ ば、 もう それ で おまえ を 傷つける こと は でき なく なる」

ジョージ・R・R・マーティン; 岡部 宏之. 七王国の玉座〔改訂新版〕(上) (Kindle の位置No.4163-4165). 早川書房. Kindle 版.

  

差別のために使われていた呼称をその差別の歴史ごと自分のものとして取り込んで自分のアイディンティティのために積極的に使っていくっていうのは非常に現代的であるように思います。

「ニガー」とか「インディアン」とかいう言葉を自分たちのために取り戻そうとする文化は眼にすることがあるし、自分ごととして言えば「おばさん」という言葉をレコンキスタしようとしているジェーン・スーさんがおもしろくて眼を話せないのはそういうところだったりする。

 

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全然関係ないですが、昔インドあたりの偉い坊さんの本を読んでおりまして、誰のなんて本だったのかはさっぱり思い出せないものの

「悩みというのが一番簡単なんです。悩むのをやめればなくなるんだから」

って書いてあったことに、目から猛烈な鱗が落ちたことがありました。

だから凡人はだいたい「悩むのをやめるのはどうやるの」っていうこと聞きたいんでしょうに、とやっていくと禅問答めいてきますが、実際悩んだときに思い出すとバカバカしくなって素晴らしい金言だな、ということでちょっとした座右の銘になってもいます。

 

「インプ(小鬼)」がどうやって自分の道を切り開いたかといえば、「やつら」から「小鬼」という名前をたった一人で取り戻して自分のものとし、一方で武道に向かない貴族として生まれた自分の本分を尽くすべく、読書をして知恵をつけるのですよね。

冷静に方法を探しながらオリジナルな人生を切り開いている圧倒的な存在感のこの人がいるだけで、魅力的な世界。

 

ついでにもうひとりシーズン1で最も光るキャラクターをあげると、デナーリスです。

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クーデターで滅ぼされた前王家の末裔で、幼い頃兄と二人だけで王国を追われて逃げ延びたのです。

青年になった兄は、自分こそ正当な王位継承者であるとして金も土地も軍隊もない空手で王座奪還を狙っている。

そんな兄から軍隊と引き換えに「野蛮人の族長」みたいな人のところに売られちゃうのがこのデナーリスちゃんです。

ドラマは表現上の都合上、十分結婚できる年齢の女性に見えますが、設定上は13歳。なにがなんだかよくわからないうちに全然知らない文化、言葉も通じないところに子供生むために売られたお姫さまです。

この子が、その部族で暮らすうち、やっぱり兄の支配から己の人生を取り戻して、自分の闘い方を見つけ、あっぱれ一族の王女に変貌します。

古いタイプのファンタジー世界では「父殺し」は青年のテーマですが、初潮迎えるかどうかくらいの年齢の少女が「父(がわりの兄)殺し」をする、というのが、とても面白い。

 

 

冬の訪れ

冬の訪れ

  • 発売日: 2015/11/16
  • メディア: Prime Video
 

 

そんなわけで見続け、読み続けている途中経過でした。