このところの暑さで、とにかく切り花がもたないのが悩みだった。
お盆で値段が上がっているところを、それでも花のないお盆が寂しくてちょっと張りこんで買ってくるのはいいが、どうかすると数時間で茹だったように首がしおれてきてしまう。
七月になくなったばかりの猫が、まだ身の回りにいるような気配のことを思うにつけ、この時期に元気のない花を飾っておくのがいかにも切なくしのびない。
氷を入れてみたり、お湯揚げしたり、アルコールを入れたり、中性洗剤を入れてみたり、色々試すが素人の付け焼刃の思い付きでは、いずれ結果はパッとしないどころか、どうかすると花の寿命を縮めているような予感すらある。
あとはこれくらいしか試せることも思いつかないなあ、というので、いつも花を売っているコーナーの横にひっそりと置いてある延命剤を買ってきた。
「気のせい程度の差でも出ればいい」
と思って買ってきた薬剤ではあるが、これが目が覚めるほどの効果だった。
まだ使って日数が経ってないので何日くらい余計にもつようになった、というようなことまでは言えないが、明らかに水がよごれないし、花がピカピカしてるし、咲かないまま枯れがちだったつぼみもぐんぐん成長している。
衝撃的な効果である。
花が元気であると、供養している猫の機嫌もいいように思えてずいぶん嬉しいものだ。
そんなちょっとうれしいことがあったところにもってきて、これまで連日暑かったのが、どうしたわけか急に「最高気温24度」などという降ってわいたような過ごしやすい日が突如やってきた。
今まで暑さにぐったりして、あまり懐いてきたりもせず、「北部方面派出所」と呼びならわしている北向きのクローゼットの床板の上で寝てばかりいた黒猫が、肉球を返したようにご機嫌に後をついて回って可愛い声を出してじゃれついたりする。
「おおそうかそうか。急に涼しくなって嬉しいか」
腹を撫でる私の声も覚えず上機嫌で、つまりは家じゅうこれ以上にないほどご機嫌である。
お盆は、虎猫のアニキが帰ってくるかもしれないんだからお前は何か気付いたらすぐ報告するんだよ。
黒猫は霊力があるって言うから、ちゃんとあそこにいるよ、って説明しにきなさい、よろしいか。
無論なんだか分かっていない黒猫の腹を撫でまわしながら、二匹揃っていたころの思い出に会いたい一心で盂蘭盆について自分でもおぼつかない知識を言いふくめる。
当の黒猫は、明らかに興味のない顔をしてゴロゴロと上機嫌を吹聴つかまつる。
まあ本当のところは、全然何もわかってなくても、霊力ゼロでも、みんな機嫌よくお盆を暮らせるならそれで充分だとは、身に染みて思っているのだ。