「しっかりめに雪が降りますんで」
という予報が出ていた日の朝、窓の外を見ると本当にしっかりめに降っている。
今日は寒いからさすがに猫もベランダのパトロールはしないだろうと思っていたら、「行くから開けろ」と譲らない。
寒いよ、と念を押して明けてやると、いつもより躊躇なく嬉しげに出ていった。
部屋に戻るまで窓を閉めるわけにはいかないから、おお寒、と震い震い朝の珈琲を温める。
見れば黒猫は真っ白な風景の中にゆったり落ちる雪の結晶に夢中である。
たしかに美しいものだよね、と熱心な後頭部に向かって黙って話しかける。
猫と見る朝の雪だ。
雪はしばらく止みそうになく、昨日ニット帽を編み上げたのは奇跡みたいにぴったりのタイミングだった。
楽しくなってきたから次は何を編もうか、と考える。
この冬のうちに猫のけりぐるみを作ってやりたいのだけど、形が複雑でしっかり目を詰めて仕上げないと命に関わる事故も起こりかねないようなものは、もうちょっと慣れてから作りたい。
もう少し細い毛糸で、もう少し暖かい日にかぶる、もう少し手の混んだ帽子でも作ってからにしようかな。
雪を見ながらとりとめもないことを考えていると
「んにゃ」
と言いながら猫が部屋に飛び込んできた。
「じゃあ朝ごはんでもいただきましょうかね」
と、餌皿の前でご機嫌よろしくスリスリくねくねしている。
お待ちなさい、お嬢さん。君はいったん寝ぼけ眼の私を起こしてまでつい先程朝ごはんを食べたばかりですよね?
「とんでもないです。夢じゃないですか?食べたばかりならこんなにお腹が空いてるわけがないじゃないですか」
と、彼女は言うのだ。
たしかに、寒いところから帰ってくるとお腹がすくのはよくわかる。
かくいう私も最近寒い外から帰ってきたときにはカフェ・オ・レに蜂蜜をいれたりなんかするからね。
そうこうするうちに、結局二度目の朝ごはんを騙し取られてしまう。
近頃、友達から突然しおりなんていう古式ゆかしいものをもらった。
「本屋さんのレジで目があっちゃって」
といきなり渡されたのは黒い生地に黒猫を刺繍した猫型しおり。
赤い首輪をしてびっくりした顔つきをしているその子は、とりわけうちの猫にそっくりだ。
我が家の猫は、寝ている時以外はだいたいびっくりしているのだ。
「黒猫って猫の中でも一番安直なデザインで可愛くなる柄だよねえ」
と喜ぶと、お主は本当に心が歪んでおるな、などと呆れられる。
なんだ、褒めたんだけどな。
可愛くてとても使えないので、新しいまま袋の中にあり、時々目が合う。
「さて。じゃあ、寒いけど新しい帽子もあるし。今日も一日がんばりますか」
空になったカップを持って立ち上がると、黒猫はびっくりした顔でこちらを見、黙って炬燵の中へ消えた。
雪の朝が静かにはじまる。