晴天の霹靂

びっくりしました

2020年上半期読んで面白かった本

今週のお題「2020年上半期」

 

今年はメモと通し番号をつけながら読書をしているので比較的多く、現時点で110冊だった。

電子書籍ゆえ、短編ひとつで一冊の扱いになっていたり、あるいはコミックスも入っているので、相当にインチキめいたところがあるものの、そうは言っても「ある程度まとまった数を読もう」と意識する時期があるのも楽しいもんだ。

 

ちゃんとした本であるかどうかをほぼ吟味せずにキーワード検索でごそっと入手して、前書き、目次、あとがき、気になった章、くらいを小一時間で読んでざらっと安直な知識を手に入れる、というような食い散らかし型の芸当は読み放題サービスのkindle unlimitedに入っているからできることであって、近所にたいした図書館も書店もない身としては本当にありがたいサービスではある(でもこういうサービスによってますます街の本屋さんが減っていくのだと思うとじっと手を見る)。

 

 

あと、妙に数を意識して読んでいると、本ってある程度限られた数を大事に所有し、骨肉になるまで時間をかけて読むのが本来なんじゃないか、というようなことをちゃんと考えるようになる。

読まない言い訳でも、読めない負け惜しみでもなく、心からちゃんと思うようになるので、そういう感覚を一面で得るのはいい事のような気がする。

 

 

2020年上半期読んだ本ベスト3

 順不同。

 

 何が面白かったかと言って「霊長類のオスはペニスを見るのも見られるのも大好き」という項目だ。

 

子どものころから、ほとんど定期的に遭遇し続ける露出狂という人種が本当に意味が分からなくて困っていた。

普通に道を歩いてるだけでカジュアルに露出狂って存在するよね、ということを男性に言っても話が通じないのも妙な気分だった。

自分で露出の衝動を感じない男性は、それはある種の精神病的な変質者でごく少数しか存在しないはずだと、たぶん思っているのだ。

だからそういう男性と話をしていると「稀なはずの極端な症例」が自分の生活圏の路上にしばしば出没する、という事態をどう理解していいか分からなくなる。

 

霊長類のオスにはペニスを対人関係の道具として利用する習性があり、そういう遠い祖先の露出メカニズムが強い衝動として現れることがあるのは、攻撃性や支配欲、精神異常とは関係ないのかもしれない、というこの本の説はそういう違和感にたいする目からうろこの回答のように思えた。

 

(ちなみに、さらに面白いのはこの説を男性にしてもあまり認めたがらないことだ。

「いやペニスの誇示は支配欲だ」「社会的逸脱行為だ」と言ったようにやっぱり「それは自分とは全く違う種族である」と言い張る。

それはそれはまあ、ありがたいことであるような気もするけど、実際にしばしば遭遇する側の実感としては「案外、普通の人が普通に出しうるんじゃないか」という感じがするんだよな)

 

 

ノモレ

ノモレ

  • 作者:拓, 国分
  • 発売日: 2018/06/22
  • メディア: 単行本
 

NHKの名物ディレクター国分拓さんの作品である。

この人の作ったテレビ作品も好きで『ヤノマミ』も『イゾラド』も何度も 観ているのだけど、この『ノモレ』という作品は、映像のドキュメンタリーで見ると、ちょっとポイントが分からないというか、ほかの作品と比べるとまとまりに欠いているような印象を持っていた。

 

本を読むと、なぜ映像として「引きが弱く」せざるを得なかったのかが、わかる。

カメラでは伝えようのない、交渉伝承の「物語」の話だったのだ。

百年前に、悲痛な運命によって分かれ分かれになった「ノモレ(兄弟)」がこのジャングルのどこかにいる、ノモレを探してくれ、という代々受け継がれる強い思い。

しかし、実際には百年経ってから会ってみても、言葉も文化も変化をしておりそれは確認の手段はないのだ。

わずかの手がかりを懐かしんで確認しようにも、互いに密林で隔絶した生活をしたもの同士、不用意に近づくと疫病により部族まるごとあっと言う間に絶滅してしまうという危険が付きまとう。

百年語り継がれた「ノモレ」という言葉がもつ喪失感は、本で読んで初めて理解できるものだった。

読んだあと、もう一度ドキュメンタリー作品もみたのだけれど、圧倒的に人を驚かす映像の力にも関わらず、やっぱり本の中にだけある孤独の方が面白いのだ。

 

 

吾輩は猫である (宝島社文庫)

吾輩は猫である (宝島社文庫)

  • 作者:夏目 漱石
  • 発売日: 2016/06/24
  • メディア: 文庫
 

 あんまり好きな言葉じゃないのだけど、、日々癒されている。

出かけるときはカバンに一匹入れており、近頃ほとんど肌守りである。

 

やれ誰の前歯がかけたの、女の癖に安倍川餅を食い過ぎるの、地味な研究ばかりして博士号を取れる見込みが立たないの、実業家は気にくわないのと、単なる内輪の風俗を内輪受け目当てで書き綴った気楽さが気持ちいい。

よく考えてみれば、これってまるきりブログじゃん。

 

その、どうってことないユーモアやちょっとした意地悪や皮肉の表出が、思いがけず広く人々に受け入れられることによって、作者が心を回復していく過程の記録なのが素晴らしい。

やっぱり最初から最後まで全部愛おしい猫なのだ。

 

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ビール飲み猫昼寝する蓮の上