毎日25分ずつ瞑想をしている。
家で仕事をする時間が長くなって、できるだけ集中しやすい状況を作るためにはじめたことではあるが、慣れるにしたがってすっかり快適になり、今となっては瞑想なしでどうやって家で集中できるのかが分からない、という気分にすらなってきている。
うちの猫たちも、私がヨガやらラジオ体操やらヘッドスタンドやら、家で奇怪な習慣をはじめることには慣れているので比較的おおらかに見ている。
……あの夜までは。
まあ何か体調のせいもあったのだろうけれど、ある日突然私は、眠いのにうまく寝付けなくて大泣きする赤子のごとく、「眠すぎて感情がバグる」という失態を犯した。
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その夜の一番の被害者は、そんなバグった私を大真面目に心配して一晩中付き添ってくれた虎猫であった。
「熟睡して睡眠不足を解消する」という、信じがたいほどプリミティブな方法ですみやかに元気を回復した私は、その後過剰な心配とストレスをかけてしまった虎猫に平謝りに謝ったのだ。
彼は彼で納得して我が家は総員、平常心に戻った。ように見えた。
しかしその日から、私が瞑想をはじめると側にやってきて
前足でチョンチョンとつつき、にゃあにゃあと声をかけて
「おい、お前大丈夫なのか?」
と確認にくるようになってしまった。
「大丈夫だから。これはむしろ平常心だからするやつだから」
と無視しようとはするが、向こうは向こうで安全確認ができるまで私を見守る腹積もりができてしまっているらしく、一向に引き下がらない。
仕方ないので、目を閉じて瞑想の状態に入ったままでそーっと猫のいる方向に向かって手を伸ばす。
猫は猫でおそらく、「なぜこちらを一顧だにせず曖昧なコミュニケーションをとってくるのか」という不信感を抱いて近づいてきた手にそーっと鼻先を付けてくる。
双方で、なんとなく生存の確認が取れたところで、私はそーっと手を膝の上に戻す。
しかし、瞑想タイマーは25分だ。
再び、猫の前足が、チョンチョンとつついてくる。
「さっき、お互い正気の確認は取ったからもういいではないか」
と思うものの、何しろ虎猫がこんなに心配性になってしまったのも、私のことを「見守り保護してやらなければならない生き物」と認識してしまったのも、総てはあの夜の行動から起ったことなのだ。
感謝とともに彼の気持ちに応える義務はある。
再び、正面を向き、目を閉じたまま、そーっとのばす手の平。
用心しいしい、そーっと近づいてくる鼻先。
互いを確認しあったところで、またもとに戻す手のひらと鼻先。
そしてまた五分後にチョンチョンとつつかれる気配。
もう完全に、猫とあの夜の自分の愚行に気を取られて何やってるんだか訳わからなくなったところで、響く瞑想タイマーの声
「瞑想が終了しました。お疲れ様でした」
……なんだ、これ。