晴天の霹靂

びっくりしました

猫さらいと黒猫

我が家にいるチビの黒猫からしてみると事情はこうだ。

最近、兄猫の食べる量が減って来たので遠慮なくモリモリと二人分のご飯を食べ暮らしていたところ、ある日突然兄ちゃんの様子がおかしくなる。

人間が大きな猫リュックを持ち出してきて兄ちゃんを入れるとどこかへ行った。

しばらくして帰ってきた兄ちゃんは、そのまま雪崩を打つように様子がおかしくなり続け、さっぱり遊んでもくれずに押し入れの天袋の一番奥に引きこもったきりになる。

翌々日、ぐっとりした兄ちゃんを再びリュックへつめてどこかへ出かけた人間は、ついに空のリュックを手にたった一人で帰ってきた。

結論するに、あの人間とは、猫を拾ってはひどい目に合わせた挙句どこかへ捨ててくる猫さらいに違いないっ!

 

……もちろん、その正体は猫さらいではなく、毎度おなじみお前の飼い主である。

具合が悪くなった最愛の虎猫を動物病院に入院させたからと言って、そうやって家の中を逃げ回った挙句クローゼットに隠れるなどという手の平返しをされるいわれは一切ない。

しかもお腹が空いたときだけ割と可愛い声ですり寄ってきて、じゅうぶん食べ終わったらまたクローゼットに取って返して籠城する、というような当てつけをされるいわれもないはずだ。

 

思い起こせばお前さんがまぬけにもおもちゃの紐を誤飲して緊急手術緊急入院をしたとき、あの虎猫がどれだけ親身に慰め役を買って出たと思っているのか。

お前だって腸が詰まって七転八倒苦しんでいる間、ずっと頭を舐めてもらっていたじゃないか。

なぜ、今こそ自分の役目は兄を見習って留守を守り、弱っている人間を慰めることだという発想が浮かばないのか。

 

黒猫は、裏表分からないほどただ黒光りする顔の中に、ボタンのようにまんまるな目がくりくりとついているだけなので、どういう瞬間にもほぼ冗談のような顔をしている。

自然、なんとなく思慮が浅くて衝動的で甘えん坊というキャラクターを背負って家の構成要員となっているが、実のところ人も猫も性格は環境が作っているものに違いないのだ。

 

ぬいぐるみのようにひょうきんな顔こそしてるけど、ついさっきガツガツ食べた餌を直後に吐いてしまうくらい、急に家に蔓延しはじめた緊張感を感じ取ってストレスにさらされているのは紛れもない事実だ。

それでも、自分が脇目もふらず餌を食べると喜ばれるのを、ちゃんと知っているのか。

クローゼットの暗いところに隠れて目をランランと光らせていると私が文句を言うていで実は面白がるのも、知っていたのか。

「お前は本当にフリーダムだな」と笑っては、変わらない家族の日常を確認することで安心していることを、あんな顔して気付いているのだろうか。

 

お前、ほんとのところどう思ってるの?

反応のないクローゼットの奥の方に向かって猫じゃらしを振りながら今頃点滴を受けてるんであろう虎猫の不在を共有する。

 

それにしても、頼むから夜は一緒に寝ておくれ。

寂しくって仕方ないからさ。