『猫なんかよんでもこない。』なんかを読んだからこうなった、ということでは全くないのだが、色々不思議な気持ちにはなる。
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ここ一週間ほど我が家の虎猫の、餌を食べる量が減ってきたのだ。
時々食の細る子で、「最近あんまり食べないね、それにちょっと痩せてきた?」ということはたびたびあり、それほど気にはしていなかった。
それがいよいよ丸一日ほぼ何も食べなかったのが昨日。
気を引こうと思って、今まで一度も与えたことがなかった秘密兵器ちゅーるーを餌にまぶしてやると、そこだけは舐める。
さて、なんとしようか、と思いながら寝て、虎猫が吐く気配で目を覚ました。
胃はほぼ空なのにまっ黄色い液体を吐いている。
これはいかん、とすぐさま猫リュックに入れて動物病院へ向かった。
飼い主都合の引っ越しのせいで獣医は変わったばかりだ。
今までお世話になっていた、やたら動物に優しく人間に厳しかった堅物獣医に比べて、まんべんなく八方美人ぶりを発揮するやや軽薄な若手獣医はあちこち検査をしながら言った。
「腎臓の数値が今すぐ危険というくらいな異常値だし、エコーで見る腎臓の形もボコボコしていてオカシイです。
それと猫エイズが陽性ですね。」
いやいや、先生。2日前までめっちゃ走り回ってましたし。
子猫のときに血液検査して以来、ほかの猫との接触も一度もないですし、
ガラス戸に映った自分の姿に向かっていったのが人生唯一の喧嘩ですよ?
感染経路がありませんて。
いやいやいやいや……え?
だけど言われてみると、最近ぽろぽろと餌を食べこぼしがち、という症状や、
なんとなく身を隠すようなそぶりを見せ始めた、という変化は
「猫なんかよんでもこない。」のクロちゃんの闘病のはじまり方と、あんまりそっくりでちょっと二の句が継げない。
取りあえず、ステロイドと抗生物質とインターフェロンと栄養の点滴をしてもらって帰ってくると、それが効くのか夕方くらいにはまたウロウロと私のあとをついて歩いてきたりする。
いつもよりは少しおとなしいけど、キャットタワーも登るし、食べない以外は元気だよねえ。
猫エイズ陽性は分ったが、それが発症したということなのか。
センセイとしては、食べられるようになればまた普通に暮らせるものと思っているのか、
このまま決定打のない介護生活の心づもりをするべきと言いたいのか。
なんだかあんまり、要領を得なかったなあ。
子猫の頃世話になっていた、引っ越し前の動物病院までちょっと相談に行くべきだろうか。
「……もし、お前がまだ長距離の移動がそんなにつらくなければさ。」
いつものようにパソコンに向かう私の膝の上にのっている猫の顔を覗き込むと、見慣れたエメラルドグリーンに光る瞳はとても健康そうに見える。
「猫なんかよんでもこない。」がいい作品だと思ったのでうっかり猫を飼ってる知人に勧めたら、読後何日も悲しくなってしまったというのでちょっと責められた。
ひどく気が利かないことをした、とずいぶん反省したのだ。
鈍感な私は、むしろそういう事態に備えて自分の覚悟がぜんぜんできないことの方によほど不安感を持っており、だからこのエッセイ漫画の、しんみりと身近な気がする悲しみごと気に入ったのだ、たぶん。
だけど喪失の予感に対する耐性は人それぞれでずいぶん差がある。
こちとら、今でさえまだピンと来てないくらいの鈍感力だ。
柔らかく温かくて、ちょっと軽くなってきた猫を膝にのせていると、その感触があんまり気持ちよいので、いくら「ここに載ってるのは毛の生えた諸行無常である」と自分に言い聞かせようとも、やっぱり永遠のものとしか想像できないのだ。
たいへん困ったことに。