晴天の霹靂

びっくりしました

『檀流クッキング』~イチかバチかのヨーグルトの冒険

ここ最近、熱心にヨーグルトを作っている。

うちにはヨーグルトモードのついたホームベーカリーがあるから、何かを発酵させて遊ぶのが大好きな私は一時期ずいぶん熱心に作っていたのだ。

夢中になりすぎて子牛の反乱に合うのではないかと危ぶまれるレベルまで牛乳の消費量が増えてしまったので、自戒してやめていた。

それがまた作り始めている。

 

いつものように安い鶏肉でタンドリーチキンを仕込んで冷凍しておこうと安売りのヨーグルトを買ったのに、鶏の方を買い忘れたせいだ。

家に帰って108円のビヒタスを見つめながら思った。

「これをただ食べて、おいしかったとか言ってるだけではまるで馬鹿ではないか。これを機に増やそう」と。

かくして我が家の「無限ヨーグルト」が再開した。

もともと好きだから、やりだすと止まらない。

 

ホームベーカリーに付属のヨーグルト用の容器では200ccやそこらしかできない。

せっかく8時間も一定温度に保温する機能を作動させておいてそれっぽっち作っても仕方ないから、500ml入るガラス容器で作る。

なぜそんなに都合よくぴったりの保存容器があるかと言えば以前びっくりするほど熱心にヨーグルトばかり作り続けていたせいだ。

本気出していたのだ。

大匙で2杯分くらいのビヒタスを入れ、牛乳500mlを注ぎ、混ぜたらヨーグルトモードで8時間。

たいへんおいしいヨーグルトが勝手に出来上がる。

本当に面白いのはその先である。

 

できあがったヨーグルトから大匙2を継いでまた牛乳を足し次世代ヨーグルトを作る。

だいたい自家製ヨーグルトの説明的には

「だんだん雑菌などが混入してくるので継ぎ足しで作るのはせいぜい2回くらいが限度。それ以上は新しいヨーグルトを種菌として買いなおして作るように」

と書いてある。

牛乳はとかく腐りやすいし、家庭には雑菌が多いから、やたら使いまわすのが推奨できないのはよくわかる。

よくわかるが発酵食品が面白いのは、その家の菌を利用して食品を加工しつつ、変な菌がつかないように常に見守り育てて味の変化を楽しんでこそではないか。

 

買ってきたビヒタスから2度作った。

三度目の種菌には、そろそろ疲れてきているであろう乳酸菌を応援するためにビオフェルミンの粉末を付属の薬匙一杯足して作る。

ここで思い出すのは流浪の料理人、檀一雄のヨーグルトづくりである。

 

檀流クッキング (中公文庫BIBLIO)

檀流クッキング (中公文庫BIBLIO)

  • 作者:檀 一雄
  • 発売日: 2002/09/25
  • メディア: 文庫
 

 

毎朝 配達 さ れ て くる 牛乳 の 中 に、 まず 米 の 麹 を 二、 三 粒 入れる。 ビオフェルミン( 乳酸菌 製剤) の 粉末 を、 ほんの 茶匙 三 分の 一 ぐらい 入れる。 エビ オス( 乾燥 ビール 酵母 製剤) の 粉末 を これ また 茶匙 三 分の 一 ぐらい 入れる。   この 三つ の もの を、 牛乳 の 中 に 入れ たら、 お 箸 で よく 掻き まわし て、 大体 一昼夜 ばかり 放置 する と、 次第に 凝縮 し て き て、 自家製 ヨーグルト が 出来上がる ので ある。

理科の実験みたいで楽しそうだ。

さすがの男一匹檀一雄、箸を消毒しなさいなどとこまけえことはもちろん言わないのである。

 

エビオスの方はそんなにおいしいものじゃないと思うので、発酵作用に不足がないうちはわざわざ買ってどうにかしようと思わないが、私が気になるのは「米の麹」の方である。

麹菌がありということは、牛乳と、乳酸菌と、米麹(多め)で発酵させれば、甘酒とヨーグルトの中間地点のものが出来上がりはしないか?

ヨーグルトだけだと食べるときにちょっと甘みを足したいような気持ちになったりするが、米麹が糖化して甘味になってくれれば、勝手に甘いプレーンヨーグルトができるのでは?

 

 

自らの思い付きに武者震いを隠し切れなくなった私は、続いて種菌ヨーグルト大匙2、ビオフェルミン薬匙1、米麹大匙2、40度8時間で作ってみた。

ちゃんと、ヨーグルトである。

しかしさほど、甘くはない。

そしてヨーグルト味の中に、後味に白カビ系チーズの香りが少しする。

苦手な人はいるかもしれないが、ヨーグルトもチーズも非常に好きな私としては、予想外だったが結構盛り上がる面白い結果であった。

米麹が舌に少しあたる食感もちょっと得する気がして楽しい。

 

これはもう少し米麹の量を増やしていくと、「牛乳で醸した甘酒」になるのではないか、誰か試してみている人がいないだろうと調べてみる。

すると宮崎で牛乳と麹だけで発酵飲料を作っている会社があった。 

 なにか参考になる情報でも出てくるかしら、と調べていたら谷川浩司の愛弟子でお馴染みの若手棋士都成竜馬の実家だということが判明し、発酵作用の参考にはならないが、なんだかやたらと面白かった。

子どものころから発酵飲料に親しむとああいうツルンとした感じの好青年になるのだろうか。

今から私もなれるかしらん。

hakko-biyori.com

 

「最初の頃から試作品を飲まされてきたので、開発の苦労は身をもって知っています。栄養価が高い『体にいい飲み物』であるだけではなく毎日飲みたくなるような『美味しい飲み物』にするために試行錯誤していました。今では自然な甘さがあって飲みやすい味になりました」

 どうやら、味の方向で苦労があったようで、思うに「なんとなく白カビチーズっぽい匂い」をどうにかするのが結構難しいのではないかという気がする。

マズいものではまったくないと思うが「甘酒」もしくは「乳飲料」と思って飲み込んだものがチーズの味だったら印象のギャップで受け入れられにくい、というのはなんとなく予想がつく。

 

とは言え、「自分にとっておいしい味」になればいいのが自家製のおもしろさではある。

かくなるうえは何と何をどういう分量で醸していくか、やはり初めてしまうと楽しくて止まらないのである。

檀さんも言っている。

 

自慢 を する わけ では ない けれども、 市販 し て いる ヨーグルト よりは、 自家製 ヨーグルト の 方 が、 何 層倍 も おいしく、 また 趣味 が 深い もの で ある。

味覚の表現として「趣味が深い」というのは、いいねえ。

 

 

 

 滅多にパンを焼かない我が家のホームベーカリーだが、焼き芋やいたり、ヨーグルト作ったり、あると楽しい。

 

 

 

 500mlのヨーグルトを発酵させるのにぴったりの容器。てっぺんに押し込むと空気を抜ける用の穴があるのでこれをおしこまずに蓋を載せるだけで使うと破裂もしないし、汚れも入りにくい。