晴天の霹靂

びっくりしました

『リビング・デッドサバイバー』~快適な巣作りのためなら結構頑張れる

プライムビデオで『リビング・デッドサバイバー』を観ました。

もうそろそろゾンビはやりつくしたんじゃないの、だいたい飽きてきたんじゃないの、と思ってみても、まだまだ新しいことを思いつく人がちゃんといるものだ。


リビング・デッド サバイバー (字幕版) - Trailer

 

資本主義が元気だったころのジョージ・A・ロメロのゾンビと人間たちはショッピングモールにワラワラ集まったのがそりゃあ印象的でしたが、

2018年のフランスの内気な青年はゾンビ界にひとり取り残された時、部屋に引きこもって「丁寧な暮らし」をはじめるんです。

都会漂流物ともいうべき、この「天然生活」みたいな描写がたまらない。

 

天然生活 2019年11月号

天然生活 2019年11月号

  • 発売日: 2019/09/20
  • メディア: 雑誌
 

 

事の起こりは、人付き合いが苦手な青年サム君が元カノの部屋に荷物を取りに行くところ。

そこはホームパーティーどんちゃん騒ぎの真っ最中。

なじめないサム君は貸してあるカセットテープを探しに入った奥の部屋でうたた寝などしてしまい、目が覚めたらなんと世の中がゾンビまみれなのです。

とりあえず部屋の隅に体育座りするなどしてしばらく呆然としますが、それから人が変わったように猛然と部屋を安全に、快適にすることに取り掛かります。

 

血まみれの床を掃除し、建物内のほかのフロアも点検してゾンビが居たら閉じ込めて安全確保、死者がいたら供養し、食料やら役に立ちそうな物資を集めてきて計画的に管理します。

ちゃんとヒゲを剃って清潔にし、誰かのウォークマンで音楽を聴きながらアパート内をジョギングして体作りにも励み、エレベーターに閉じ込められた無害なおじいちゃんゾンビと友達になるなど、本当に楽しそうに暮らします。

元カノに合わせようとして気まずそうにしていたころもよりも自分の知恵と力だけで生活を切り開くようになってからが生き生きと自信もついたようにみえ、見ていてとても楽しいところです。

 

あるとき窓から外を見ていて猫が一匹歩いているのを見かけて

「あの子、生きてる!一緒に暮らしたい」

と思ったサム君は猫捕獲作戦にうってでます。

ところが建物から出たところで通りをウロウロしているゾンビに襲われ、なんとか無事に家には戻りますが、そこから恐怖やネガティブな未来予想にとらわれてどんどん精神を病んでいきます。

 

あんなに一人で楽しそうにひきこもっていたサム君があっという間にやつれていくのを見るのがつらく、ああなぜもうちょっと上手に猫をおびき寄せられなかったか、幸せな引きこもり生活のまま世界の終末を迎えられなかったものか、傷つきやすい心をもった人がたった一回の失敗で気力を失うことがそれほどの罪だろうか、など見ているこちらもうっかり貰いクヨクヨしてしまうほどの喪失感です。

 

そして彼もついに、果敢にも幸か不幸かわからない世界に向かって一人で出ていかざるを得なくなるのです。

ストーリー展開としては、もちろん内向きに閉ざされていた心の扉をあけて外に出ていった行動を良しとするべきなのでしょうが、私はむしろ内にこもって幸せなサム君をずっと見たい。

この「かえすがえすも、幸せが打ち砕かれたあの瞬間だけが残念だ」という感じって、もともと好きなやつだった気がするなと思ったのですが、『異邦人』でした。

 

異邦人 (新潮文庫)

異邦人 (新潮文庫)

  • 作者:カミュ
  • 発売日: 1963/07/02
  • メディア: 文庫
 

 『異邦人』は人とはあまりうまく理解しあえないけど、穏やかに幸せに一人で暮らしてる青年がなぜか急に人を殺してしまって、そこから何もかも台無しになる話です。

ムルソー君がずっと幸せな一人暮らしをまっとうできなかったことがどうにも残念で、つい読んでしまう小説です。

 

人は日々成長を求め、失敗を恐れず、積極的に人と関わって、多少の躁状態を維持しながら、どこに出しても恥ずかしくない生活を、しないとダメなものかね?

思うに私は、「丁寧に暮らす青年シリーズ」は、だいたい好きなのかもしれません。

 

リビング・デッド サバイバー(字幕版)

リビング・デッド サバイバー(字幕版)

  • 発売日: 2018/08/02
  • メディア: Prime Video