晴天の霹靂

びっくりしました

君とふたりで眠り猫。

黒猫がクローゼットから出てこない。

 

もともとフリーダムな性格で、こだわりなく行きたいところに行っては芝刈り機みたいにゴロゴロとリラックスをアピールする恐れを知らぬ存在として暮らしていたものを、

ある瞬間に家に病と死の気配が持ち込まれときから、ずいぶん様子が変わった。

 

急に身辺が騒々しくなったり、初めて家で一人きりにさせられたり、面倒を見てくれていた先輩猫がいなくなったり、飼い主の情緒がなんとなく不安定だったり。

彼女なりにどれほど不安が多い数日を暮らしたのは想像に難くない。

人間は人間で、カーペットやら色々なカバーやら洗って風を通し、想像力の及ぶ範囲で「なんとなくまがまがしい雰囲気」を消す努力はしてるのだ。

それでもたぶん生命の危機に関して人間より敏感な生き物にとっては明らかに「そこじゃない」んだろう。

 

「まだ寝てるのー」

とクローゼットの中を覗きに行くと、暗闇になじみすぎる黒猫は一番暗いところで目を光らせていた。

前はあちこちで腹を出して長く寝ていたけど、近頃はいつでもすぐに立てるよう香箱すら組まずによそよそしく座る。

 

たくさん寝るんだねえ、寂しいからこっちの部屋で寝ない?

色々となだめつすかしつ、声をかけていて気が付いた。

そういえば、私も、ここのところ寝ても寝ても眠い。

どれくらい眠いかというと、日課の瞑想の途中で身体が横に揺れるくらい眠い。

もう、それは瞑想でなくて単に居眠りである。

 

「そういえば、眠いねえ!」

人間で、かくも眠いのだ。

猫がずっと寝ていても何の不思議もない。

これはつまり、環境の変化に慣れようとして脳みそが普段と違う活動をしており、そのぶん余計に休息が必要なのじゃないだろうか。

ねえ、どう思う?

 

黒猫とても永遠にクローゼットに住みたいわけでもないのだろう。

ただ私が普段いる部屋に対する恐れも消し難くあり、それでも時々は巡回に来て顔を見て、ついでにここ数日で見かけなくなくなってしまった兄猫がどこかにいないかも確認し、おそらくは少しがっかりして、また一人静かな部屋の外のクローゼットに帰っていってるに違いない。

 

もう寒い季節じゃないから、しばらく家じゅうのドアを解放しておこう。

どこにでも行って、一人で休んだり、安全を確かめたり、不在に慣れたり、いろいろゆっくり進めなさい。

新しい家族の形を、ゆっくりやっていこうや。

 

しっかし、本当に眠いよね。

君の眠り続けるのを見てなければ危うく気付かないところだった。

こういうところは、人間の不器用さだねえ。

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デルフィニウムしたたってやがて夜