眠るときはいつも左を向いて、抱き枕にチョークスリーパーの姿勢でKindleを読みながら寝る。
読書に夢中になっていると黒猫がのっそりとやってきて、横向きの私の上にしっくり香箱を組む。仰向けの人間に乗る猫というのはまま見かけるが、横向きの人間の体側にもこんなに不自由なく乗ってリラックスするものかな、と感心するくらい軽快にごろごろ言いつつ猫は先に寝入る。
こちらとしても、胃の上で寝られるより姿勢が楽なのもあって、横向き二段睡眠はまずウィンウィンといえるフォーメーションではないかと思ってきたのだ。
それがどうしたことか、今日は朝起きると大腿骨あたりがいきなり痛い。ちょうどぴったり夜ごと猫が載るあたり、峰不二子がガンホルダーをつけてるあたりがピンポイントで痛い。
猫の重みで寝違えたか、と思いつつ、しかし猫と寝て筋肉のどこかが痛くなるのはそんなに珍しいことではないので「イデデ、イデデデ」などと言いつつ暮らす。寝違えは起きたときが一番痛くて、活動とともに筋肉が緩んでくるとマシになる。はずである。
朝のコーヒーを淹れたり、寝ている間にかすみ草を食べてしまった猫に小言を言ったりなどしている間にもなぜか峰不二子ガンホルダーあたりはどんどん痛くなり、しまいにはトイレで奇声を上げるレベルの立派な急性猫型捻挫であることを発見する。
しかし、どう考えてもおかしいのだ。
好きな本を読みながらいつもの姿勢で眠る夜。そこに気心の知れた猫が居てお互い安心しながら決まったポジションで寝ることの、この圧倒的な時間の豊かさを考えてみるべきだ。かわいいものを載せて寝てどこか痛くなるなんていう道理があるだろうか。
「どう考えても、かわいいものは痛くないだろう!」
しまいには怒りが湧き起こる。ゴロゴロ言う子狸みたいなあの生き物が私の体に痛いはずはない。これはきっと気のせいだ。
今夜はかすみ草を隠して眠ろう。そして、うちの猫ちゃんは2グラムだと信じて眠ろう。かわいいものが、痛いはずがないさ。
猫町へ人体模型を売りにゆく 水野真由美